内容説明
戦後、日本の歴史学においては、合戦=軍事の研究が一種のタブーとされてきました。
このため、織田信長の桶狭間の奇襲戦法や、源義経の一ノ谷の戦いにおける鵯越の逆落としなども「盛って」語られてはいますが、学問的に価値のある資料から解き明かされたことはありません。城攻め、奇襲、兵站、陣形……。歴史ファンたちが大好きなテーマですが、本当のところはどうだったのでしょうか。本書ではこうした合戦のリアルに迫ります。
■第一章 合戦の真実
■第二章 戦術――ドラマのような「戦術」「戦法」はありえたか
■第三章 城――城攻め・籠城・補給・築城
■第四章 勝敗――勝利に必要な要素とは
◎内容例
本当に軍師は存在したのか?
川中島の戦いの勝者を考えるポイントは?
奇襲は有効だったのか?
なぜ城攻めをするのか?
各城にどのくらいの兵力を置くか?
お粗末すぎる日本の城壁
合戦のコストを考える
大将の討死は実は少ない
関ケ原の戦いと指揮系統
ほか……
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きみたけ
64
著者は東京大学史料編纂所教授の本郷和人先生。城攻め・奇襲・兵站など歴史ファンたちが大好きなテーマですが、本当のところはどうだったのか「合戦のリアル」に迫った一冊。城の役割として①敵対する敵の居城②城下町として領地一帯を統治するための城③敵国との国境線の守りを固める境目の城などがあり、城攻めの理由として①敵の命を奪うため②敵が持っている経済的な利潤を奪うため③敵の領土に侵攻するためがある。真の勝敗は総合的に見て判断する必要があるという。先日読んだ長谷川ヨシテルのお城の話とリンクしてとても興味深い内容でした。2023/01/31
tamami
56
著者によれば、戦前の日本は、神風に象徴される皇国史観のせいで、また戦後は、軍事研究の忌避により、まっとうな軍事史研究が行われてこなかったという。そんな風潮に対して、「戦いのない未来を創る。そのためにも、冷静な合戦研究がなされるべき」と著者は訴える。歴史物が描く合戦物語に対して、合戦の意味や勝敗を決する要因について述べるとともに、一人の戦闘員が戦場に立つというリアルを想定し、桶狭間の戦いや高天神城の攻防など、歴史上有名な合戦や城の攻防について、真実!を記していく。戦後の歴史学研究の壁の一つに風穴を開けるか。2022/04/27
yamatoshiuruhashi
54
帯は「軍師は本当に存在したのか?」とあるが、本書の真骨頂はそのような軍記物の真偽を確かめることと言うより、歴史を考える上で軍事をタブー視してはならないこと、軍事のリアルを知らねば歴史事象の分析を誤ると言うことだと思う。なぜ城は築造されるのか、その城をなぜ攻めねばならないのか。城の機能によって大きく違うし、その軍事的意義の違いによってその城を巡って行われた戦いも様相も意味合いも異なる。軍事を知らずにただ憶測をしても仕方がないと言うことを明確に打ち出したことは大きな意義がある。2023/01/20
どん
12
戦後の歴史学は軍事の研究がタブー視されてきたため、これまで伝わってきた義経や信長の戦の話は好まれるけれど、学問的な裏付けがない。本当のところはどうだったのか。当時の経済や城が持つ意味などから客観的にとらえると別の意味になる。こういう見方も興味深く面白い。ただ、盛った話があるから面白いのだとおもう。2023/05/24
鬼山とんぼ
11
戦国時代の合戦という、特殊な形式の戦い(弓矢と刀剣、兵士の多くは臨時徴集の農民兵)に絞って、小説や歴史であまり語られていないそのリアルを紹介。ただ例によって突っ込みが甘く、限られたサンプルから一般論として結論を下し、読者には判りやすい論旨で、ま、大体こんなもんさと煙に巻く。もちろん納得できる部分が大半なのだが、こんなに簡単に結論していいのかなー、と他人事ながら不安になってしまう。古文書にある軍勢の人数が10倍ぐらいに膨らましてあるとか、動員兵力は40万石当たり1万人とか、参考になる情報は多かった。2022/06/21