内容説明
樹木を愛でるは心の養い、何よりの財産。父露伴のそんな思いから著者は樹木を感じる大人へと成長した。その木の来し方、行く末に思いを馳せる著者の透徹した眼は、木々の存在の向こうに、人間の業や生死の淵源まで見通す。倒木に着床発芽するえぞ松の倒木更新、娘に買ってやらなかった鉢植えの藤、様相を一変させる縄紋杉の風格……。北は北海道、南は屋久島まで、生命の手触りを写す名随筆。(解説・佐伯一麦)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
シナモン
133
「木」にまつわる15のエッセイ。 目の前のことにとらわれず、先々を考える幸田露伴の子どもの感性の育て方に触れ、ほんとにそうだなと心打たれた。何ごとにおいても最低一年、春夏秋冬を巡らなければ、確かなものは見えてこないという視点も日々慌ただしく生活に追われるばかりの自分にしみる言葉だった。 素直に丁寧に紡がれる文章は読んでて心が落ち着く。木そのものの命や生涯、哲学も感じる上質なエッセイ。手元に置いておきたい一冊だった。 2024/07/29
アキ
122
役所広司が第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した、ヴィム・ヴェンダースの新作映画『PERFECT DAYS』で、主人公・平山が寝っ転がりながら、この本を読んでいた。映画の中で古本屋の女主人が幸田文はもっと評価されていい作家だよねって言ってたが、平山は無言だった。木に関する15篇は著者67歳から80歳までのエッセイ。端正な文章で、父・露伴と藤を無言で眺めた思い出、木肌を着物の柄に例える感覚、マッチ棒の盛衰とポプラの需要の変化など、木にまつわる体験を綴っている。中でも屋久杉への旅は是非体験したい。2023/12/30
kaoru
119
70歳を過ぎてから木を求めて日本各地を旅した著者。『藤』では孫に草木への関心を促す父幸田露伴が、『ひのき』ではアテと呼ばれる使いものにならないヒノキへの執着が描かれる。介添えにおぶわれてまで屋久島の縄文杉を堪能する姿勢に明治女の一徹さを感じた。常願寺氾濫のフィルムを見て杉が激流に沈む見事さに感動し「私等の先祖は役に立つということだけを気にする人間ではなく、杉形という言葉を持ち続けてきた」と書く。桜島と有珠の噴火を対比し「灰まみれの木」の惨たらしさを記しているが、これはいつか我々の身に迫る事態かもしれない。2024/11/14
Major
110
過剰な装飾を削ぎ落とし、自身の五感で捉えた自然の息吹を刻む実証的な切れの良い文体はこの上なく美しい。厳かなサラバンドの旋律となって読者の心に深く響く。「えぞ松は一列一直線一文字に、先祖の倒木のうえに育つ。一とはなんだろう。」木々や命への溢れる慈しみと、静かな情熱を宿したこの名文。「わからない」と奥ゆかしく引いてみせる行間には、朽ちた親木の命を糧にして真直に天へと育ちゆく子の姿、偉大な父である露伴から娘の文、孫の青木玉へと真一文字に流れる、文筆家三代の誇り高き血脈への温かく深い思いが豊かに込められている。2026/08/03
里愛乍
97
端的、上品、それでいて鋭く小気味よく、つまり読んでいてとても気持ちがいい。180頁に満たない一冊であるが、随分と時間をかけて楽しませてもらった。其々の木に纏わるエピソードはどれも愛を感じずにはいられなかったし、なんと感受性の強い方であろうか。木材業の人とのやりとりはとても微笑ましくて、幸田文という作家の為人に魅入られる。この文の言葉の連なりは彼女其の物なのだろう。好きな作家さんがまた増えた。2025/11/12
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