内容説明
樹木を愛でるは心の養い、何よりの財産。父露伴のそんな思いから著者は樹木を感じる大人へと成長した。その木の来し方、行く末に思いを馳せる著者の透徹した眼は、木々の存在の向こうに、人間の業や生死の淵源まで見通す。倒木に着床発芽するえぞ松の倒木更新、娘に買ってやらなかった鉢植えの藤、様相を一変させる縄紋杉の風格……。北は北海道、南は屋久島まで、生命の手触りを写す名随筆。(解説・佐伯一麦)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シナモン
125
「木」にまつわる15のエッセイ。 目の前のことにとらわれず、先々を考える幸田露伴の子どもの感性の育て方に触れ、ほんとにそうだなと心打たれた。何ごとにおいても最低一年、春夏秋冬を巡らなければ、確かなものは見えてこないという視点も日々慌ただしく生活に追われるばかりの自分にしみる言葉だった。 素直に丁寧に紡がれる文章は読んでて心が落ち着く。木そのものの命や生涯、哲学も感じる上質なエッセイ。手元に置いておきたい一冊だった。 2024/07/29
アキ
116
役所広司が第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した、ヴィム・ヴェンダースの新作映画『PERFECT DAYS』で、主人公・平山が寝っ転がりながら、この本を読んでいた。映画の中で古本屋の女主人が幸田文はもっと評価されていい作家だよねって言ってたが、平山は無言だった。木に関する15篇は著者67歳から80歳までのエッセイ。端正な文章で、父・露伴と藤を無言で眺めた思い出、木肌を着物の柄に例える感覚、マッチ棒の盛衰とポプラの需要の変化など、木にまつわる体験を綴っている。中でも屋久杉への旅は是非体験したい。2023/12/30
kaoru
105
70歳を過ぎてから木を求めて日本各地を旅した著者。『藤』では孫に草木への関心を促す父幸田露伴が、『ひのき』ではアテと呼ばれる使いものにならないヒノキへの執着が描かれる。介添えにおぶわれてまで屋久島の縄文杉を堪能する姿勢に明治女の一徹さを感じた。常願寺氾濫のフィルムを見て杉が激流に沈む見事さに感動し「私等の先祖は役に立つということだけを気にする人間ではなく、杉形という言葉を持ち続けてきた」と書く。桜島と有珠の噴火を対比し「灰まみれの木」の惨たらしさを記しているが、これはいつか我々の身に迫る事態かもしれない。2024/11/14
クプクプ
86
幸田文さんが、植物の専門家ではないことが、文章に幅と奥行きを感じさせて成功していました。日本各地の有名な樹木の姿を確かめに行く、紀行文とも言えると思います。私も若い頃、昆虫採集で全国を旅したので、懐かしい読書になりました。全て面白かったですが、特に「ひのき」のエッセイは、ヒノキという樹木の分類ではなく、木材としてのヒノキが書かれていたので、よかったです。大工さんのような方が、幸田文さんの、良い材、悪い材の見分け方の注文に応じ、実際に試し、幸田文さんが極限の文章で表現する点で、手に汗をかきました。2024/06/15
森林・米・畑
81
表紙の爽やかな木々のデザインに惹かれて手に取った。幸田文さんが北海道、屋久島、静岡、桜島など実際に足を運ぶ。樹木や土地の情景描写がリアルで私自身がその場に居るように感じる。読み進めるうちに木の見方が変わった。改めて自然の偉大さを教わった。2024/02/19
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