内容説明
辻本拓海は大物地面師・ハリソン山中と出会い、彼のもとで不動産詐欺を行っていた。メンバーは元司法書士の後藤、土地の情報を集める図面師の竹下、土地所有者の「なりすまし役」を手配する麗子の五人。彼らはハリソンの提案で泉岳寺駅至近にある市場価格100億円という広大な土地に狙いをつける。一方、定年が迫った刑事の辰は、かつて逮捕したが不起訴に終わったハリソン山中を独自に追っていた――。次々と明らかになる地面師たちの素顔、未だかつてない綱渡りの取引、難航する辰の捜査。それぞれの思惑が交錯した末に待ちうけていた結末とは? 実在の事件をモチーフに描いた新時代のクライムノベル。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぶち
89
積水ハウス"地面師"詐欺事件を基にした犯罪小説です。2017年に積水ハウスが土地の購入代金 55億円を騙し取られた事件のことは鮮明に覚えています。単純なトリックの詐欺に一流企業が簡単に引っかかてしまうことにビックリしました。この小説を読むと、騙される側に隙があることが分ってきます。地面師たちをはじめ、不動産会社経営者、司法書士、書類偽造屋、なりすまし役など様々な関係者への膨大な取材に基づいて書かれたのでしょう。読んでいて不動産取引の実態などなにも知らない私でも圧倒的なリアリティを感じ、ドキドキしました。2023/08/04
りゅう☆
87
事業が悪化した父により火事で妻子を失い孤独になった拓海はハリソン山中と出会い地面師となり不動産詐欺を行っていた。詐欺シーンのハラハラは好きではない。百億円という高額詐欺に着手するメンバー。一方ハリソンの容疑を疑い、定年間際までずっと彼を追ってきた刑事辰。拓海が転落人生を送ることになったことに関わりがあるのか?夫に逃げられた女僧侶の土地を開発本部長青柳に騙して売る。辰以外、味方になりたいと思う人物がいない。拓海の転落人生には同情するも詐欺師であったことは否定できない。だけど一番の極悪人に天罰が下ってほしい。2023/02/21
PEN-F
46
いつだかの積水ハウスが喰らった不動産詐欺を思い出す。もともと物凄くリアリティのある内容のお話だったが、最後の、ホントに一番最後のシーンに現実を見た気がする。悪は滅びない。悪個人は滅んだとしても、悪という存在そのものは滅びない。2023/08/23
カブ
44
実際にあった地面師詐欺事件が下地かと思われる内容にグイグイ引き込まれた。知らない世界のことを知ることができる物語は面白い。2022/03/31
Kazuko Ohta
43
思えば私が地面師なるものを知ったのは、本作のモチーフとなっている事件が新聞紙上をにぎわせていたときだったのでしょう。世の中にはこういう「仕事」があるのかと目が点になりました。当時その事件を映画化したいと思いながらもできなかった大根仁監督が、これを映画化すればいいんだと目を輝かせる姿を想像。でもやっぱりできないんですね。嗚呼、大人の事情。何億何十億を稼ぐ詐欺で、売り主のなりすまし役に支払われるのは数百万。応募者は金に困っている人ばかり。数百万では借金の完済もできないのに。永遠に騙し騙される。なんだか切ない。2022/04/06