内容説明
その地域に生まれたというだけで差別されることを拒み、人はその人のまま尊厳があり、平等に扱われなければならないと高らかに謳った、部落解放運動。すべての差別に、それが許される理由などないことを先駆的に示し、多くの反差別運動に影響を与えた全国水平社の歴史をたどる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
てくてく
5
優性保護法やハンセン氏病などの政府や組織がらみでの差別や弾圧に関する研究の多い藤野氏と、被差別部落問題の研究者である黒川氏のタッグによる近代日本の部落差別問題と水平社活動に関する総まとめのような一冊。水平社創設段階から天皇の臣民として等しい立場であることをひとつの根拠としたことが、時代としては当然の戦略であるとはいえ、その後の活動の限界みたいなものにつながっていたのだなと思った。ハンセン氏病患者の強制隔離政策と被差別部落の関係が興味深かった。2024/09/26
kamakura
3
水平社創立100年。水平社がさまざまな傾向を含みながら歩んだことが改めてわかった。次第に天皇制と戦争に屈服した、と描かれがちだった水平社の人々が、創立初期から、明治天皇の「解放令」を根拠の一つに闘っていたこと、自国の植民地主義を批判できていなかったことが指摘されている。どんな局面でも部落解放のチャンスを得ようとして、結果、軍部や翼賛政治に接近していった事は現代の我々も警戒すべき。一方、内部で厳しい路線対立があっても、差別・弾圧には、一致して抵抗する矜持があった事(福岡連隊軍隊差別直訴事件)も重要。2022/06/08