内容説明
1964年の東京オリンピックは、戦後日本の復興を象徴し、高度経済成長と一体となった「世紀の祭典」として語られてきた。その語りは、日中戦争によって返上された1940年「幻の東京大会」の悲劇性との対比で、国民に感動と誇りと活力を与えた成功譚として記憶されてきた。
東京が三度招致した東京2020オリンピックは、新型コロナウイルスによって延期になり、国民的な批判を浴びながら、史上初、無観客で開催された。悲劇性を抱えた2つの東京大会のはざまで、1964年の東京オリンピックは、唯一、正常に開催されたオリンピックになった。
本書は、1964年の東京オリンピックの遺産の正負両面を具体的な事実にもとづいて掘り下げ、脱神話化を試みる。開催に反対する世論、オリンピックをめぐる政治家の思惑、文学者たちによる批判、地方都市での受け止め方、学校での関連教材の配布や観戦動員、パイロット選手の記憶、音楽や踊りなど身体を通したオリンピックの経験に光を当てる。
そして、1964年の東京オリンピックの遺産を通して、東京2020オリンピックの意義をあらためて検証する。
中京大学スポーツミュージアムとも連携して、当時の資料が閲覧可能に。スマートフォンやパソコンを通して、1964年を追体験できるスポーツ・デジタルアーカイブの新たな試み。
目次
まえがき 坂上康博/來田享子
第1章 池田勇人首相と東京オリンピック 中房敏朗
1 国会の施政方針演説でのオリンピック
2 総裁選挙と東京オリンピック
3 原潜の寄港阻止運動とオリンピック
4 「花道」としての東京オリンピック
第2章 天皇・原子力・オリンピック 中房敏朗
1 パトロン・オブ・ザ・ゲームズ
2 オリンピック・イブの集火式
3 オリンピックと原発――二つの国家的事業
4 「人類」と「平和」
5 組織委員会からみたオリンピック
第3章 忘れられた遺産――文学者たちの東京オリンピック批判 坂上康博
1 封じ込められた国民の批判意識
2 膨大な開催経費や都市開発に対する批判
3 平和への決意と願い
4 抑圧的な状況に向かって
5 「無責任なナショナリズム」の広がり!?
コラム 敗者へのまなざし――文学者は何を思ったか 坂上康博
第4章 五輪競技を開催した八王子市――記録映画にみる都市の経験 高尾将幸
1 八王子市の記録映画
2 八王子市による自転車競技誘致と植竹市政
3 八王子を美しく!
4 イベントと親切都市宣言とオリンピック
5 競技施設の建設
第5章 学校に届いた東京オリンピック 木村華織
1 学習教材にみる東京オリンピック
2 教師たちの記憶
3 足助小学校に大松博文がやってきた
4 学校体育の変化――体力づくりの波
第6章 東京オリンピックと踊る人々 伊東佳那子
1 踊りへの誘い――「東京五輪音頭」「東京オリンピック音頭」「東京五輪おどり」
2 平和を語りかける歌詞
3 近代スポーツと伝統文化の融合
第7章 「オリンピック・マーチ」が鳴り響いた空――「オリンピックと音楽」に刻まれる「記憶」 尾崎正峰
1 戦前・戦後のオリンピックと楽曲
2 一九六四年東京大会をめぐる楽曲
3 古関裕而の人と音楽
4 リバイバルで復活した古関の人気
5 映画『東京オリンピック』による「記憶」の書き換え
第8章 パイロット選手の記憶 來田享子
1 体操競技会場になった東京体育館
2 地方から一九六四年を目指して
3 パイロット選手の記憶――競技の舞台裏で
4 言葉を通じて蘇る体操競技の風景
5 テストパイロットから正選手へ――一九六八年メキシコ大会と一九七二年ミュンヘン大会の記憶
コラム 手のひらに届いたオリンピック 來田享子
終 章 対談:一九六四年大会と二〇二〇年大会を双方向で捉え直す 坂上康博/來田享子
1 二〇二〇年大会と一九六四年大会を往還する
2 オリンピックを学ぶということ
3 一九六四年大会の意義
4 オリンピックの使い方
5 メダルランキングという罪
コラム 世界の東京オリンピック研究――海外文献データベースを検索してみた 冨田幸祐
あとがき 坂上康博
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Toska
澄川石狩掾