内容説明
戦略を研究し戦史を読むことは人間性を知ることにほかならない――。クラウゼヴィッツ『戦争論』を中核とした戦略論入門に始まり、山本五十六の真珠湾奇襲、チャーチルの情報戦、レーニンの革命とヒトラーの戦争など、〈愚行の葬列〉である戦史に「失敗の教訓」を探る。『現代と戦略』第二部「歴史と戦略」に自作解説インタビューを加えた新編集版。〈解説〉中本義彦
【目次】
戦略論入門――フォン・クラウゼヴィッツの『戦争論』を中心として
Ⅰ 奇 襲――「真珠湾」の意味するもの
Ⅱ 抑止と挑発――核脅威下の悪夢
Ⅲ 情報とタイミング――殺すより、騙すがよい
Ⅳ 戦争と革命――レーニンとヒトラー
Ⅴ 攻勢と防御――乃木将軍は愚将か
Ⅵ 目的と手段――戦史は「愚行の葬列」
インタビュー『現代と戦略』とクラウゼヴィッツ
解説 人間学としての戦略研究 中本義彦
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さきん
22
レーニンがクラウゼヴッツの戦争論を参考にしたというところは新鮮だった。ヒトラーをはじめとする残虐な独裁者をただの凶悪なる人間として片付けてしまう感じは人間の洞察が弱い印象をうける。何かしらついていく人はその人間性に魅力があるからついていくわけであるわけだし。日露戦争は奇襲側が優位に終わる近代の大規模な戦争としては特殊という理解はその通りと思った。日露戦争以後の戦争兵器は防御側の方が機関銃しかり、重砲しかり、破壊力が大きい気はする。現在は核まであるので、下手な総力戦にはならない。2020/02/29
まーくん
19
歴史(戦史)の解釈を掘り下げ、国際政治における戦略的思考について論じている。戦略の本質とは「自己のもつ手段の限界に見あった次元に、政策目標の水準を下げる政治的英知である」と結論。非対称戦としてのベトナム戦争の推移など今にして納得できることも多かった。原本は1985年、米国ではレーガン政権の頃に当たる著作である。30年以上経て、ソ連崩壊、中国台頭など大きな変動がみられたが、本書で述べられている戦略的概念をもって今般の北朝鮮問題などを考えて直してみると、どのような対応策が出てくるのか?2018/02/11
nagoyan
13
優。いささか時代を感じさせるが、しかし説かれていることは時代を超えて、われわれに教訓を与えてくれそうである。ヒトラーの戦争は、勝利の見込みを失った時点で、ユダヤ人問題のための時間稼ぎとなったという指摘は正直ぞっとする。また、山本五十六への厳しい評価も。ところで、戦後日本が「低姿勢外交」に徹してきたことを「素晴らしいことといわなければならない」とするリアルな戦略眼を、今日のわれわれは果たして持つことができているのか。2020/03/13
CTC
10
16年12月中公文庫。初出は84年文藝春秋連載で、単行本は翌年刊。本書はその単行本の第二部の部分。第一部も『新編 現代と戦略』として同時に文庫化。著者は東工大で永く教鞭を執った国際政治学者で、高坂正堯と同時期に、同じく現実主義の論者として活躍したそうだ。本テキストは危機における「指導者の決断の本質」がテーマで、とくにこの第二部は「戦史に学ぶ失敗の教訓」を導き、国防や国家戦略への興味だけでなく、企業実務家の戦略思考に資する事を目指している。⒈真珠湾、⒉核の脅威、⒊エニグマ、⒋ヒトラー、⒌乃木将軍…の章立て。2017/06/15
hurosinki
8
戦史から学ぶ戦略論。純軍事的配慮、あるいは白黒分けるイデオロギーを超えて、様々な要素を総合してすり合わせる、曖昧で妥協に満ちた政治的判断を重視する政治的リアリズムが戦略の要となる。資料的な古さ(特にドイツ周り)はあるものの、30年以上前にこれが世に出ていたことにビックリする。2021/02/08