内容説明
人はなぜ変わるのか? 罪と罰とは? ふとした出来事で人は堕落し,何かがきっかけとなって立ち直る.老作家は,痛みと苦しみを経て愛によってよみがえる人間の内面の復活をひたむきに問う.問いは問いを生み,容易に答えは出ない…….19世紀の終焉を目前にし,リアリズムを徹底した果てに,トルストイはそれを突き抜けた.
目次
第二編(8~42)┴第三編(1~28)┴解説(藤沼 貴)┴トルストイの最後の長編小説『復活』(藤沼 貴)┴あとがき(阿部昇吉)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ベイス
85
テーマありきで書かれた小説、という印象。と思ったら解説で実話に基づいた作品と知って驚いた。物語が自走していく、というよりはトルストイの問題意識に沿ってプロットが決められている感があり、不自然さと冗長さとでそこまでのめり込めず。ただしトルストイの、人間性の「復活」を信じる姿勢は終始力強く、勇気をもらえる。戦後まもなく生きる方向性を見失うもトルストイの作品に出会い救われたという訳者藤沼貴氏の解説が非常に秀逸。「人間の精神は進歩するのではなく復活するのだ」というトルストイの思想は非常に深い。感動してしまった。2023/10/05
シュラフ
31
この小説の一番の核心は「人間を愛情ぬきで取扱っていい立場などありはしない。人間相互の愛情が人間生活の基本的な掟だからだ」とネフリュードフが考える部分だろう。いま若い女性社員を過労自殺に追い込んだ電通事件が世間を騒がせているが、彼女をそこまで追い込んだ組織とはなんなのだろう。おそらくそこで働く人々も家庭ではよき父よき夫なのだろうが、組織人になったとたんに非情が許されてしまう。もっと愛情を持てよ。相手はまだ社会人になったばかりじゃないか。仕事を厳しく教えるのはいいが、そこに愛情がなかったらたんなるしごきだよ。2017/02/01
たかしくん。
27
ネフリュードフは、ドストエフスキーの中のラスコーリニコフとムイシキンの間に位置する人物ですかね。第2編では引き続きロシア社会への批判が続き、正直退屈しましたが、第3編でようやく恋愛小説らしい筋書きへ。トルストイ最後の傑作は、意外にもあっけなく寂しい結末で終わります。訳者の解説の言葉を借りて「結ばれることで愛を失ったネフリュードフとカチューシャが、別れることによって全うした逆説。」言えて妙で、実はありがち!?(笑) それが故に、解決がないままに物語が終わっていく感が、なんとも言えません。2017/03/20
くみ
20
陪審員の不手際から懲役、シベリア流刑が決まったカチューシャ。彼女と結婚するのが「義務」と感じ一緒にシベリアへ行く決意をするネフリュードフ。ネフリュードフのカチューシャへの献身は「自己満足?」とも取れそうです。実際カチューシャもそんな疑問を持っている様子。しかしラストでトルストイは振り切った。これはトルストイだから迎えられたエンディングだと思います。そして人間の弱さは認める、だからどうする?という問いを投げかけられているように感じました。読了直後は抹香臭くも感じましたが、じわじわと清涼感が広がってきました。2018/03/24
いちろく
19
課題本。上巻で悲運にも遭ったカチューシャは自らの道も切り開きタイトルに相応しい印象。一方で、もう一人の主人公であるネフリュードフに対しては自己欺瞞の部分がどうしても拭えず、巻末の解説のような解釈をすんなりと受け入れられなかった。むしろ彼にとっての復活は、これから先とも。正に、小説の醍醐味である感想の十人十色に直面した印象。著者が描く作品の妙でもあるのだろうな、と。宗教色も強く、もっと踏み込めたら違った作品の側面にも向き合えたと思うと、今回はチト無念。2023/05/16