内容説明
「バナナフィッシュにうってつけの日」のラストは主人公の自殺ではなかった!? 前代未聞の問いは天才作家の作品世界全体に及び、やがては『ライ麦畑』までが……。世界最高峰のミステリ賞〈エドガー賞〉の評論・評伝部門で日本人初の最終候補となった「文学探偵」が弟子と読み解く新たなサリンジャーの世界。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
94
「バナナフィッシュ」の結末で男が右こめかみに銃声を轟かせる。「これも誓って言うけど、ぼくたち<シーモアとバディ>のどちらかがこの世を去るときには、いろいろな理由で、もう片方がそこにいることになる」を、白隠慧鶴禅師の隻手音声の公案「二つの手による拍手の音を私たちは知っている。しかし、一つの手による拍手の音とは何か。」から反転させ、轟く銃声は「片手の音」であり、では二つの手による音とは何かと問いを立てているのだ。芭蕉(=バナナ)の俳句など意外な謎解きにワクワクしつつ読み終えた。サリンジャーを全作読んでみたい。2021/11/23
Shun
37
「バナナフィッシュにうってつけの日」の唐突な結末は男が粛々と拳銃で自殺するというものだった。普通に読めばシーモアの自殺という帰結ととる場面ですが、著者はこの人物が誰だったのかという問いかけから本書の考察は始まります。一体どのような論説が展開されるのか興味津々で取り掛かった本作でしたが、バナナフィッシュを含むサリンジャー作品を縦横無尽に読み取っていき様々な謎が次々と線で繋がっていく様は推理小説の解決編の如き面白さ。言葉を巧みに利用した伏線から禅問答や弓道の正射必中の教え等々、サリンジャーの奥深さを知る良書。2022/06/21
Y2K☮
35
正直「キャッチャー」や「ナイン・ストーリーズ」は自分なりの解釈で十分楽しめる。最初はその方がいい。だが本書を知ってから再読すると見える景色が鮮明になる。リマスターされたCDから意外な楽器の音を発見するように。そうポイントは「音」なのだ。通常この種の深読みは拡大解釈やこじつけと五十歩百歩。だがサリンジャーに関しては当てはまらない。作品中のごく細かい箇所にも彼の意志が反映されていると考える方が自然だから。そして「シーモア序章」や「ハプワース」みたいな作品を楽しむにはこういう本が不可欠。空前絶後のファンブック。2022/01/27
❁Lei❁
35
シーモアは本当に自殺したのだろうか? この問いから出発し、バナナフィッシュ、テディ、シーモア序章、ライ麦などの作品や日本の禅の思想を経由して謎が解き明かされていきます。答えは想像の斜め上をゆく常識外れのもので唖然としてしまいました。しかしそれは十分な根拠に支えられた納得のいくもので、それだけサリンジャー文学は深淵なのだと改めて実感できました。そして今までの何万倍も作品が愛おしくなりました。サリンジャーファンには必携の書であること間違いなしです。2021/09/21
ばんだねいっぺい
30
帯を書いている著名人たちより読み込みが浅かったせいか、どんでん返しの感覚よりも、バナナの意味や、影響元についての方が驚きを感じた。とりあえず、「弓と禅」は、リスト入りである。「キャッチャー・イン・ザライ」をもう一度読める気がしてきた。2023/09/19