内容説明
「戦争さえなければ軍隊に行くはずのなかった弱兵の多くが、粗食と重労働の中で殴られ、蹴られ、打ちたたかれたあげく病んで声もなく犬死にしていった。そういう有様を、私は声をおさえて忠実に書きとめたつもりである」(序文より)
一九四四年九月、三十三歳で横須賀海兵団に入団してから四五年八月に復員するまでの日記を、作家は上官の目を盗み、小さな手帳に書き付けた。それを基に自ら詳細な註釈と補遺を付し、当時の書簡を収録した、敗戦間近の海軍の貴重なドキュメント。初文庫化。〈解説〉平山周吉
【目次より
昭和十九年 (九月十四日~十二月二十九日)
応召、入団
一一〇分隊
一〇〇分隊(機関科教場)
昭和二十年 (一月一日~八月二十四日)
一等兵進級
横須賀海軍病院
湯河原分院
田浦山砲台
団内病室
保健分隊
敗戦、復員
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ikedama99
7
「雲の墓標」でも感じていたこと、中から見た組織としての軍隊の不条理がひしひしと迫ってくる感じだ。からっとしたものではなく、じめじめとした陰湿な感じがつねにつきまとう感じだ。ここまでして人を集めてそして使えないままで何か腐敗していく感じすらしてくる。あとがきにあるように「近代日本の臨終を描く」内容だとも思う。読み応えある本でした。2023/06/10
古本虫がさまよう
6
この日記のユニークなのは、日記の文、そのものは「短文」なのだ。「メモ」程度といってもいいかもしれない。文庫本の1~2行程度。一応厳禁とされている「日記」だから、記すのもカンニングペーパーのようにしていたとのこと。 その短文に著者自らが詳細な「長文の解説」をつけて構成されている。こういう戦時日記というのは珍しい。当時の軍隊の実情がよく分かる。ただ「日記など、もってのほかであった」と言いつつも、野口氏のように「日記」をこっそり書いている兵士は多かった。見つからなかったとはいえ…。 2021/07/25
Ted
3
'82年8月刊。○戦争末期に海軍に招集されたロートルが密かに綴った日記。米軍は戦場で鹵獲した日本兵の手帳から情報を読み取ったというから日記は許されていたのかと思っていたが、海軍では防諜上厳禁だったらしい。横須賀海兵団に入隊したとはいえ病弱過ぎて兵舎と病院の往復しかしておらず、戦場経験はゼロ。周囲には仮病を装う兵役忌避者がゴロゴロおり、いつの時代にもこういうクズどもが絶えることはない。インテリらしく控えめな筆致だが随分と惨めな生活で酷い目にも遭ったようだが最前線に投入された兵士の労苦に比べれば児戯に等しい。2021/11/28
yoyogi kazuo
2
読むと、日本の軍隊に召集されるとはどういうことなのかが分かる。それは人間が「牛馬あつかい」されることである。野口は戦場に赴くことはなく、召集後に病気になり栄養失調に苦しみ入院していたのだが、廊下に並ばされ、臀部へのバットでの殴打を繰り返し受けていた。上官がぬくぬくとした部屋で贅沢な料理を食らっている横で、下着のみで極寒に晒され、急性肺炎で次々と息絶える仲間たちに手を差し伸べようともしない、自らの命を守ることに精一杯の下級兵士たち。野口の筆致は過度の憤りや自己憐憫に流されず、作家の面目躍如といっていい。2022/01/29
岬
1
暴力、不潔、不正義、差別、イジメ、疾病、絶望、暗愚…戦争と軍隊の本質が目一杯詰まっていて、本当に吐きそうだ。 こんな時代に生まれてしまった人たちに心の底から同情するし、こういう時代に戻そうとする連中のことを憎まずにはいられない。2023/03/21