内容説明
ダンスホールで働くジーリンは、ダンス中に客の男のポケットに入っていたあるものを、偶然抜き取ってしまう。ガラスの小瓶に入れられた、干からびた人間の指。なんとか返そうと男の行方を探すが、彼女と踊った翌日に男は死亡していた。弔問客を装って男の妻からきいた話によると、その指はバトゥ・ガジャ地方病院の看護婦から手に入れた、幸運のお守りらしい。ジーリンは病院で補助スタッフとして働く、血のつながらないきょうだいのシンの手引きで、バトゥ・ガジャ地方病院に潜り込むのだが……。英国植民地のマラヤを舞台にした、東洋幻想譚。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さつき
71
イギリス領マラヤを舞台にした物語。厳格に家庭を支配する義父の目を掻い潜り、お金のためにダンスホールで働くジーリン。イギリス人医師に仕える少年レン。全く共通点の無さそうな2人の運命はどこで交錯するのか。レン=仁、イー=義、ジーリン=智、シン=信と五常のうちの4人までは揃ったけど、残りの礼はいったい誰なのか?恐ろしい人虎伝説と塩漬けの指の謎も気になるし、義理のきょうだいへの切ない思いの行方からも目が離せない。珍しく夜更かしして読み耽りました。下巻も楽しみです。2022/10/20
sin
58
英国植民地時代のマラヤを舞台に亡き主人の小指を探す召し使いの少年と、その小指を手にした悩み多き美しい乙女の二人を軸にマラヤの人虎伝説を絡めた異国情緒たっぷりのある意味現実的な手応えを持ったファンタシーだ。主人公たちはそれぞれ五常“仁”“智”“信”の名を持ち夢の少年“義”と、問題を持つ“礼”が物語を幻想的に、また複雑に彩って飽きさせない。果たして人虎は存在するのか!?そして夢の少年は何を伝えようとしているのか!?下巻に続く2022/01/15
優希
46
面白かったです。英国植民地を舞台に、幻想的な世界が広がっていました。美しくミステリアスで、現実から離れたような空気感を感じます。下巻も読みます。2022/07/06
りー
37
この本、当たり!中国系マレーシア人の作家さんによるファンタジー。闇のパープルアイ(なつかしー)を思わせる人虎、謎の干からびた指、血の繋がらない姉弟、兄弟をを亡くした少年が、不思議な運命で引き合って、怪しげな空気を醸し出したところで上巻終了。面白い~。植民地支配中のマレー、シンガポール、中国の雰囲気がセピアな感じで伝わってくるのがファンタジーとしてとても新鮮。下巻が図書館に届いたという知らせが入ったので、土曜日が楽しみです♪2021/09/13
泰然
27
舞台は英国領マラヤ。東洋伝承を下敷きにした幻想趣向なミステリに留まらず、英国調ゴシックと恋模様を織りなして読者を魅惑的オリエンタルな世界へ誘う。家庭の事情で、両親に内緒でダンスホステスのアルバイトをするヒロインがある日偶然、人間の指が入ったガラスの小瓶を客のポケットから抜き取る。彼女は持ち主に返そうと奔走するが、別の場所では人虎の噂が出始めて…。熱帯のマレーの神秘的空想世界と、中国系民間伝承を謎解きとヒロインの苦悩描写に巧く絡める。上巻ラストのロマンスシーンは憎い王道の王道。作者のコンセプト力に感服する。2021/06/26