内容説明
やってない強盗殺人事件で罪を着せられて、
無罪と認められるまで43年7カ月。
そのうち29年間を獄中で過ごした。
現在、74歳。
一昨年に癌が見つかり、医師からは余命1年と宣告された著者が、
獄中で書き綴った自作の詩とともに、今伝えたい思いをまとめた。
絶望しながら、
人の優しさに触れ、
人を想う心を知った
苦しみに耐えた人が
もし強くなれるのならば
私の強さは無類だろう
自由を縛られた刑務所の中で
二十代を失い
三十代を失って
今、四十五歳
ひたすらに耐えてきた二十五年
苦しみに耐えてきた人が強くなれるのならば
私の強さは無類だ
悲しみに耐えた人が
もし優しくなれるのならば
私の優しさは底なしだろう
人間の心をも断ち切る刑務所の中で
母も失い
今、父も失って
何もできないままに
ひたすらに耐え続ける歳月
悲しみに耐えた人が優しくなれるのならば
私の優しさは底なしだ
(中略)
もし私に強さと優しさがあるとすれば
それは耐え忍んだ月日によるものではない
人間の人間として強さが
人間の人間として優しさが
どこにあるかを教えてくださる人によるのだ
きっと
私に強さと優しさを与えてくれたものは
人間の祈りと願いの力だ (「強さと優しさに」1992年3月より)
20歳の秋に始まった冤罪(えんざい)との闘い。
43年7カ月に及んだ歳月は、無駄ではなかった。
自分にとって必要な時間だった
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぐうぐう
36
悲劇の真の実感は、それを体験した人間にしかわからない。それをわかった気にはなれないし、なってはいけない。ただ、考えることはできる。なぜその悲劇は起きたのか。なぜその人は理不尽な目に遭わなければならなかったのか、と。映画『ショージとタカオ』を観た時、布川事件への憤りや冤罪の恐怖を覚える以上に、桜井昌司と杉山卓男の二人の人間に魅せられた。不器用だが懸命な二人の姿に、だからこそ冤罪がもたらせる悲劇を考えさせられた。本書は、桜井昌司が布川事件を振り返る手記と獄中で書いた詩で構成されている。(つづく)2021/05/07
玲
7
「一日一日を人生の一日限りの今日として大事に生きよう」。この言葉を私は本当に理解していただろうか。彼は獄中で29年という長い時間を過ごした。無実が晴れるまで43年かかった。まだ若い私がいつか彼と同じ歳になったとき、似たような宣告を受けたとき、明るく人生を謳歌できるだろうか。日付、年齢、あったことがわかりやすく記されていて、間に挟まれる詩に胸を打たれる。2021/04/23
しゅんぺい(笑)
2
冤罪で29年間自由の利かへん生活を送ったわけやけど、それでも前向きに活かしていくのは、その境遇になかった自分はただただすごいと思ってしまう。2022/06/05
よっしー
2
29年間無実の罪で投獄されていたとのことだが、ものすごく前向きで元気をもらえた。2021/08/22
しまちゃん
2
布川事件、無実の罪を着せられて29年間を獄中で過ごす。『「俺の上には空がある広い空が」そう考えて深呼吸を続けた。心が静まるのを待った。』この本を読んで、冤罪とは何か、どうして起こるのかを改めて知り、なんとも言えない気持ちです。桜井さんは『人間は過ちを犯す、人間の作る組織も同じだ。人間である限るは間違うのだ。私や冤罪体験者は間違うことを責めるのではない。間違えたのに、それを認めようとしないことに対して怒りを覚えているのである。』と言っています。こういう気持ちになれるって、すごいなぁ~と感じました。2021/07/07