内容説明
恐れていたことがとうとう起こった。関空に向かうはずの飛行機に兄は乗らず、四半世紀を暮らしたウィーンで自死を選んだ。報せを受け、葬儀とさまざまな手続きのために渡墺した妹。彼女に寄り添う、兄の同僚、教会の女性たち、そして大使館の領事。居場所を探し、孤独を抱えながら生きたある生涯を鎮魂を込めて描きだす中篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Syo
32
なんだか変わった作品2022/03/10
ソングライン
18
外務省在外派遣員としてウィーンに渡り、20年そこに暮らす兄優介が自殺します。妹の奈緒は遺体処理と遺品整理のためウィーンに向かいます。兄と年上の今は亡くなった女性とが暮らした部屋でその遺品を見つめ、兄の人生を回顧する奈緒、会葬の際の兄の短い人生を思う奈緒の真摯な言葉たち。人は国を選び生まれてくることはできません、異国の地を第二の故郷にするには、その孤独と疎外感を分かち合えるパート―ナーが必要なのです。日本が好きになれなかった優介も外国に暮らせば故国が懐かしかったのです。そんなことを考えながら読了しました。2021/05/30
Book Lover Mr.Garakuta
17
【図書館本】【速読】:割とあっさり読めた。何やら実話を小説化したらしいが、作者の気持ちをおもんばかると一縷の涙を誘われる。2021/11/03
すみっちょ
17
掴みどころのないお話でした。と言って面白くないわけではなく、むしろ何があったのかが気になって、先へ先へと急かされるように読んでしまいました。優介の自死に関する諸々が解決するにはまだ時間がかかりそうだ、というところで終わりますが、そういう結末もありかなと思います。最初、久保寺領事は何か裏があるのかと思ったのですが、粛々と任務を遂行する、思慮深くて思いやりのある普通の外交官でした。最後のメールの「いずれまた縁あって、世界のどこかでお目にかかれる機会がありましたら」という言葉が素敵だなと思いました。2021/06/11
blue_elephant
12
図書館の新刊コーナーで、エゴン・シーレの表紙に惹かれて借りてみた。初黒川創氏。ウィーンで自死した兄の痕跡を探すために幼き子を連れて日本から訪れた妹。ウィーンの人々と触れ合ううちに兄の人生が垣間見えてくる。静かな熱を感じながらも静謐な空気感を纏う。作者の他の作品にも興味を感じる。2021/03/13