内容説明
恐れていたことがとうとう起こった。関空に向かうはずの飛行機に兄は乗らず、四半世紀を暮らしたウィーンで自死を選んだ。報せを受け、葬儀とさまざまな手続きのために渡墺した妹。彼女に寄り添う、兄の同僚、教会の女性たち、そして大使館の領事。居場所を探し、孤独を抱えながら生きたある生涯を鎮魂を込めて描きだす中篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Syo
32
なんだか変わった作品2022/03/10
踊る猫
31
黒川創という書き手の誠実さに触れた思いがした。死者の思い出を胸に、それでも回り続ける世界の中で毅然として生き続ける生者たちの実像を実に理知的・分析的に書き記していると唸る。だが、作品に込められたメッセージ性や就職氷河期の人物の価値観のあり方などが逆説的に、小説的な旨味を出す足を引っ張っているようでどこか落ち着かない。もっと大胆に「嘘」をついて読者をかき回してもいいのではと思う反面、私小説的な素描として読むとまた違った分析が可能とも思われてもどかしい(が、その読みを試みるにはこの作品はまだなにかが足りない)2024/10/16
ソングライン
18
外務省在外派遣員としてウィーンに渡り、20年そこに暮らす兄優介が自殺します。妹の奈緒は遺体処理と遺品整理のためウィーンに向かいます。兄と年上の今は亡くなった女性とが暮らした部屋でその遺品を見つめ、兄の人生を回顧する奈緒、会葬の際の兄の短い人生を思う奈緒の真摯な言葉たち。人は国を選び生まれてくることはできません、異国の地を第二の故郷にするには、その孤独と疎外感を分かち合えるパート―ナーが必要なのです。日本が好きになれなかった優介も外国に暮らせば故国が懐かしかったのです。そんなことを考えながら読了しました。2021/05/30
Book Lover Mr.Garakuta
17
【図書館本】【速読】:割とあっさり読めた。何やら実話を小説化したらしいが、作者の気持ちをおもんばかると一縷の涙を誘われる。2021/11/03
すみっちょ
17
掴みどころのないお話でした。と言って面白くないわけではなく、むしろ何があったのかが気になって、先へ先へと急かされるように読んでしまいました。優介の自死に関する諸々が解決するにはまだ時間がかかりそうだ、というところで終わりますが、そういう結末もありかなと思います。最初、久保寺領事は何か裏があるのかと思ったのですが、粛々と任務を遂行する、思慮深くて思いやりのある普通の外交官でした。最後のメールの「いずれまた縁あって、世界のどこかでお目にかかれる機会がありましたら」という言葉が素敵だなと思いました。2021/06/11