内容説明
一九二五年、刊行直後の『我が闘争』を熟読した石原はその野心をたぎらせていた。高まる自国主義のなかで共振する日独、満州の謀略。国家のスローガンに万歳が応え、日常は塗り潰されていく。そして瓦解、夥しい死者。冷静に史実を叙述しながら八六歳の作家は〈戦争の世紀〉に何を見たのか。命を削って書き上げた執念の遺作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
54
20世紀は戦争の世紀といわれるが、ヒトラーと石原莞爾の野心がなければ第二次大戦は起きなかっただろう。同年生まれながら会うことなく生きた二人の思惑が交錯し、やがて世界規模の戦争に至るまでを史伝形式で描く。一方は第一次大戦の敗戦で打ちひしがれた祖国再興を願い、片や日本の未来は大陸進出にこそあると信じた。共に手段を選ばぬ謀略を駆使し、ついには第三帝国と満州国建国にまで漕ぎ着けた。男の夢を実現したわけだが、結局は旧来の世界秩序と衝突し世界大戦を招き多くの死者を出した。自分の野心に他人を巻き込むなと主張したいのか。2021/03/21
クリママ
51
昨年86歳で亡くなった著者最後の作品。小説の形から始まるが、ヒトラーのドイツと石原莞爾の日本から描く第二次大戦の史伝。第一次大戦敗戦による経済的困窮脱却を望むドイツ国民と、勝ったとはいえ得るものがなかった日本国民の民意が、ナチズムを、中国への領土拡大を狙う軍国主義を支持していく。その当時の大国が当然のこととして植民地支配をし自国を潤していたことを鑑みれば、戦争に突入するのは避けられなかったのかもしれないと知る。そして、日本でいえば、宣戦布告の最後通牒が不手際から真珠湾攻撃開始後となったこと、東条英機陸相⇒2021/10/20
チェアー
5
小説というよりフィクションの形をとった歴史書のように読める。ヒトラーと石原莞爾の対比がテーマなのだけど、実は石原莞爾はあまり出てこない。 人生の最後に何を書くかと考えて、作家は戦争を書き遺すことを選んだのだろうか。2021/03/19
そうげん(sougen)
2
歴史は部分だけを切り取ってその性格を定めようとしても、結局観察者の感想にしかならないことに思い当たった。南に侵攻する理由となった石油等の物資の不足は、海外とのどのような関係のもつれによって生じていたのかとか、アメリカとの開戦の流れであったり、日本側が採る作戦がことごとく後手に回っていくさまであったり、ある程度長い期間を、可能な限り平明な視点で捉えて書き綴られた本書は、昨今の先の戦争を語るコメンテーターの弁と比べるもなく、信頼に値するものと受け取れました。巻末にも書かれてある通り、史伝ですね。2022/07/17
bigdad
1
⭐⭐⭐2021/04/05