内容説明
「簡単なことだ。あたしを殺せばよろしい」と騎士団長は言った。「彼」が犠牲を払い、「私」が試練を受ける。だが、姿を消した少女の行方は……。暗い地下迷路を進み、「顔のない男」に肖像画の約束を迫られる画家。はたして古い祠から開いた異世界の輪は閉じられるのか。「君はそれを信じたほうがいい」――静かに魂を揺さぶる村上春樹の物語が、いま希望と恩寵の扉を開く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あきぽん
187
ダリとかのシュールレアリズムの絵の中に入り込んでさまようような、そんな読書体験でした。そういう話ををさらさらと読ませる村上さんの文章力はさすが。でも、彼はノーベル賞よりもアナログと性と子供に強い未練があるような…。2019/04/26
白いワンコ
167
十代二十代の頃のように必要な小説ではないけど、何かしらの示唆がやるせない気持ちにさせる読後感は変わらない。以下、作中書き出した言葉を二つだけ。21、22頁・免色の言葉「あなたには望んでも手に入らないものを望むだけの力があります。でも私はこの人生において、望めば手に入るものしか望むことができなかった」304頁まりえの心情「そして彼女はそういう自分を勇気づけてくれるものを、ひとつでも多く必要としていた」2019/04/04
tokko
161
初めてこの本を読んだ時に、なんとなく村上さんが『グレート・ギャツビー』を書いたらこんな風になるんじゃないかなあ、という印象を持った。そして文庫化された今もう一度読み返してみてもその印象は変わらない。あらゆるものを手に入れることができる(けれど本当に手に入れたいものは手に入らないどこか心のバランスを欠いた)免色さん。語り手である僕は免色さんと出会うことで変化を遂げる。細かりディティールは違うんだけれど、そこにはギャツビー的な哀しさと美しさが漂っているように感じるんだけれど、どうでしょう。2019/04/23
stobe1904
129
【村上ワールド長編4/4】秋川まりえの失踪をきっかけに、色々な物語のパーツが歯車として噛み合って動き出した。開いてしまった現実と異界の環、地底異界での彷徨、家族の喪失と再生など、これまでの作品で使われた建て付けではあったが、それでも時を忘れるほど没頭してしまった。読書の楽しみや喜びを与えてくれて、読み終えるのを惜しいような、そんな素晴らしい作品だった。まだ先だと思うが、次の長編もとても楽しみ。それにしても騎士団長のキャラは秀逸。★★★★★2020/11/14
おしゃべりメガネ
125
我ながら久しぶりに時間が経つのを感じさせぬまま、怒涛の勢いでイッキに読了。正直四冊目となる本作はもう何が何やらさっぱりモード全開でしたが、春樹さん作品はとにかく理屈ではなく、感覚で読むと自分は勝手に思っているので余計な迷いは気にすることなく、ひたすらページを捲りました。「世界の終り~」だったり「ねじまき鳥~」だったり、「カフカ」だったり、「1Q84」だったりとあらゆる作品のオマージュ的な描写を感じる気がします。また時間をあけて、じっくりと再読すべき作品なのは間違いなさそうです。春樹さん、やっぱりスゴい。2022/05/28