土星の環:イギリス行脚

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土星の環:イギリス行脚

  • ISBN:9784560097786

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内容説明

何世紀もの破壊の爪痕をめぐる

イギリス南東のサフォーク州の海岸線や内陸にひっそりとある町々をめぐる徒歩の旅。荒涼とした風景に思索がよびさまされ、過去の事跡からつぎつぎに連想の糸がたぐられていく。アフリカから戻ったコンラッドが寄港した保養地、中国皇帝が乗るはずだった列車が走行していた鉄橋……そして本書の同伴者となる17世紀の医師、トマス・ブラウンをはじめとした、魂の近親者である古今の人々との出会い。
〈私〉という旅人は、どこか別世界からやってきた人のように、破片を拾い上げ、想起によって忘れ去られた廃墟の姿を甦らせる。人間の営みを、人間によって引き起こされる破壊と惨禍を、その存在の移ろいやすさとともに見つめようとする眼。歴史を見つめるその眼差しは、そこに巻き込まれた個々の人間の生、その苦痛に注がれている。
「作中入れ替わり立ち替わり現われる奇妙なエピソードは、それぞれ独自の奇怪さを有していて、印象としては、すべてが次第にひとつに収斂していくのではなく、何もかもがいつまでも横滑りしていく感がある。」柴田元幸氏による解説「この世にとうとう慣れることができなかった人たちのための」より引用。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

まふ

113
紀行文というよりも随筆と言える。イギリス南東部ノーフォークの病院に筆者が入院したことがきっかけで様々な想念が浮かびそこからさらに想念が駆け巡り世界中を旅したような気分にさせられる。人体解剖の話、ニシンの大漁の話、英欄の洋上の覇権争いの話、サラエボでのオーストリア皇太子暗殺の話、ポーランド人だったコンラッドのコンゴでの話、ダニッチという町が数世紀の間に海に洗われて消滅したという話、ヨーロッパにおける養蚕の歴史等々、まさに思いつくままの話題だ。面白いかと聞かれれば、「……」というところであった。G1000。2024/02/21

南雲吾朗

75
本を開き文章をを追う毎に至上の幸福感に包まれる。書かれているのは正に溢れる様な知識。イギリスを巡る旅行記なのだが、その時その場所の懐想を知識の出し惜しみをせずに語る。その知識が嫌味にならないのは、文章があまりにも美しいからに他ならない。栄華と退廃。時の移ろい。文章を追い著書の知識に触れる事にこの上ない幸福を感じる。いつまでもこの幸福感に浸って居たくて、一行一行ゆっくりと丁寧に読んだ。この本に出合えたことに、本当に感謝をしている。2020/12/17

市太郎

57
再読。憂鬱症の語り手がサフォーク州を旅し、先々の場所で様々な文献や歴史や土地から、退廃的な世界観を構築していく。目次にある通り1章ごとに細かく分かれているのだが、本文では区切りもないので、突然、話が脱線していくように思えるが、結局一つのところに集約されていく事が多く、これを小説と捉えるなら、連作短編のようにも読める。凄く良い本だ。壊れていった歴史の残滓を著者が掘り起こすことで見えるあらたな側面。人も建物も時には食事もこの世に壊れないものはない。恋の行方も同じ。蚕の一生が儚く思えたのもこの本の優しさである。2022/01/28

こばまり

48
全ては朽ちる途中にあるか、朽ちた後なのだ。虚しさに取り憑かれるも、どこか心地よいこの虚しさに浸っていたい。ゼーバルトその人の魂も、今も何処かを逍遥しているのだろうか。2021/04/11

みねたか@

44
イギリス東部サフォーク州の海辺から内陸を徒歩で旅する作家。廃墟と荒廃。旧領主屋敷、オーフォードの軍事施設跡、没落領主階級の今を生きるアッシュベリー家。全体に憂愁と虚無感に満ちているのに不思議な解放感。また、ふとした出来事から作家の想像力は時空を越えていく。コンラッドがコンゴで抱いた憂愁、蚕を愛でる西太后の孤独、水没した町ダニッチを襲った嵐。現実から虚構への軽やかな転換に眩暈にも似た酩酊感を覚える。旅行記の体をとりながら卓越した文学作品で経験したことのない読書体験。巻末、柴田元幸氏の解説がまた嬉しい。2022/01/31

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