内容説明
内面に渦巻く暴力性と、冷え冷えとしたニヒリズムを個人の問題としてでなく、近代の病として世に問うた三島由紀夫。死後50年、その内なる叫びを掬い取った決定的評伝。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
41
文学者が生きた時代にどんな影響を受けて作品を書いたかは評伝の重要なテーマだ。読者にとって三島由紀夫とは謎の自裁を遂げた不可解な存在だが、作家としては昭和という時代に共に生きて成功した人との印象だった。しかし、実際の三島は同時代と苦しい戦いを続けニヒリズムに陥るほど疲弊していた事実を明らかにする。暴流に流されまいと必死に抗う姿は、村松剛や奥野健男などの伝記で形作られてきたイメージとは大きく異なる。草稿や創作ノートまで調べ尽くした研究家の手になるだけに、その論証は鮮やかだ。もう一度三島を通じて昭和を考えたい。2020/12/21
ぐうぐう
35
没後五十年だった昨年、三島由紀夫関連の書籍がいくか刊行され、その中には評論も多かったが、本書もまた読み応えのある評伝となっている。著者の井上隆史は、「虚無」「セバスチャン・コンプレックス」「全体小説」という三つを焦点にして、三島由紀夫という存在を読み解こうとする。『仮面の告白』が象徴するように、プライベートな経験が三島の小説には反映されていると同時に、井上は三島が生きた時代もそこには如実に描かれていると説く。時代への抗い、つまり時代との戦いにそれは映る。(つづく)2021/09/08
chiro
4
三島を追い続けてきたであろう著者の三島没後50年を起として書かれた評伝。三島の跡を詳細に追いながらその周辺についても事実を積み上げながら語られているその足跡はすでに語られているものだけでない新たな三島の側面を知らしめてくれる。三島が当時日本の行く末を如何に案じ、そして周囲が如何にそのことに鈍感であったかという事実はおそらく今の時代においても同様の現象なのだと思うとき、今三島の役を任じている人物が思い浮かばないことに危うさを感じてしまう。2020/12/06
Nekotch
2
時代と運命に翻弄され続けた、まさしく暴流のなかに生きた人という印象を持つ。「これ、もっとどうにかならなかったのかな」と思うことほど「どうにもならない流れの中にいた」ようにも見える。そしてどこか常に危機感に駆られながらメッセージを発していたようでもある。その「このままでは日本が危ない」という感覚はいつもありながらもその正体までは視えていたのかどうか。つまり、今この時代がかく流れていく謎の予感みたいなものをどこかに感じながら生きていたのかもしれないと思わせる。2021/03/18
Yasuyuki Kobayashi
2
三島由紀夫全作品を読みときながら、 彼が目指そうとしていた世界を検証 していく論文。 三島文学を学ぶ絶好のテキスト。2021/01/19