内容説明
史上最高の天才物理学者である気の強い姉に、なにかにつけて振りまわされるぼく。大学四年生だった夏に日本でおこなわれた“あの実験”以来、ぼくは三年ぶりに姉に呼び出された。彼女がいまいるのは遠い宇宙空間月をはるかに越えた先、ラグランジュポイントL2に浮かぶ国際研究施設だ。そこで姉は、同僚研究者とふたりきりで“別の宇宙”を探索する途轍もない実験にとりかかろうとしていた。第5回創元SF短編賞を受賞した表題作にはじまる全3話。巻末に文庫版ボーナストラックの掌編を収めた。星雲賞候補となった、新時代のハードSF。/イラスト=加藤直之、解説=堺三保
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
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54
🌟🌟🌟🌟☆。エクストリームスーパーハードSF。三話構成+オマケの中篇集。巷の評判で「結構、手強い。」と聞いていたので長い間積みっぱなしにしておいた。確かに理数系の理屈を読んでいる時はさっぱり分からない事だらけ。特に第三話『楽園の速度』は文庫本書き下ろしなので書きたい放題書いていて何が起きているのか掴み辛かった。でもなんか良いんだよね、コレ。好みじゃない人もいるだろうから薦めないけど俺は好き。ちょっと考えが纏まらないのでとりあえずここまで。2023/06/02
シタン
22
世界を記述するのは理論であり、理論は世界を変革する。科学とは、面白いことを追究する心から生まれる(=知的な)、新世界を作る営みだが、SFはそれを現実から解き放ち虚構の世界へ自由に羽ばたかせる。宇宙論的に言えば、本作品は量子ゼノン技術、知性定理、情報=演算対といった概念が導入された本格的なハードSFで、科学的・哲学的アイデアの宝庫である。それでいて読み口はライトで個性が存分に現れており、あとがきにもあるイーガンなどとはだいぶ違う。散文的に言えば、天才物理学者の姉が一千兆個に分裂したりする姉SFともいえる。2020/12/16
ほたる
14
コテコテのハードSFながら姉と弟を繋ぐ良い物語だった。三部構成で進みに連れて徐々に考え方が複雑になっていき、この部分を理解するために必死に食らいついて行った。ここまで複雑に変化しても、姉に対する弟の想いは最後まで変わっていないことを感じられたのがとてもよかった。ボーナストラックの夏の定理もまた非常に感慨深い。2023/04/20
masabi
11
【概要】知性定理を証明したネルスとその姉テアの織り成す連作。【感想】イーガンを仮想読者としたハードSF。史上最高の宇宙物理学者と名高い姉が弟の数歩先を行き、弟は被験者だったり、課題を託されたりと振り回されるのだが、暴君ではなく弟のことも思っての行動である。その影響が時空間操作や情報機関の誘拐など壮大なスケールになるのだが。中核となる知性定理だけでなく人格のアップロード、コンパクトシティを極限にしたセクター都市など周辺の舞台設定も魅力的だ。 2020/11/21
Aoki
5
美しく感動的な宇宙と科学と姉弟の物語。日本の夏と北極圏の冬。そして宇宙をどう描くのか真摯に取り組み続けて、叙情感溢れる清々しい作品。2024/11/29