内容説明
人々はなぜ喫茶店に引き寄せられたのか。その独自の空間に流れる時間は、作家・芸術家たちにとっての文学や美術の誕生の場となった。コーヒーや茶の歴史にはじまり、明治、大正、昭和の喫茶店の変遷を追う。いまやチェーン展開のカフェに押され、絶滅危惧種化しつつある喫茶店の魅力に迫る異色の文化史。単行本を大幅改稿文庫化。図版多数収録。
目次
●喫茶店出現まで
日本人のコーヒー初体験
茶店の成立
煎茶の流行と茶屋の発展
明治のコーヒー店
●薬局からカフェへ
薬効
覚醒作用
コーヒーの伝播と薬局
ドラッグストア
●代用コーヒーの系譜
チコリー
タンポポ
大豆と珈琲糖
インスタント・コーヒー
●カフェー列伝
閑雅な食慾
ビヤホール
台湾喫茶店
よか楼
メイゾン鴻乃巣
プランタン
ライオン
大阪資本
タイガー
TIP
●喫茶店の時代
青木堂
ミルクホール
パウリスタ
ブラジルとブラジレイロ
恐慌時代
不二家
コロンバン
モナミ
千疋屋
中村屋
南天堂
女たちの東中野
リリオム
らんぼお
ユーハイム
進々堂
ルルと創元
●音楽喫茶
ミュージック・ホール
電気蓄音機
クラシック
ジャズ・エイジ
フォーク
うたごえ
●戦後喫茶店の概観
解説日記──内堀弘
索引
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヨーイチ
29
この著者は初読み。喫茶、珈琲の受容史から始まり、サロンとしての喫茶店の隆盛、変貌を概括している。取り止めがないとも言えるが、小生が知りたかったカフェとかミルクホールについての証言が興味深い。珈琲の受容とか文芸、芸術活動の溜まり場、「喫茶店の歴史」は創造活動の歴史でもあったのだ。名を成した人、成せなかった幾多の人々の「無為な時間」を喫茶店は提供してきたのであろう。この本の凄い所は纏まった資料などあろう筈のない分野にも関わらず引用元を律儀に上げてある点で注の量が半端じゃない。2020/09/27
ハルバル
11
喫茶店を軸に語る文学、社会、文化史の集大成のような本。そもそもの茶店のはじまりから解き明かし、コーヒー蘊蓄、喫茶店創世記など膨大な引用からなり、明治大正の有名無名マイナーな文化人達のエピソードがたくさん出てくるのだが知らない人も多く個人的にはノリ切れないところも。解説にもあるけど辞典的な使い方に向いてるのかな。全部読むというよりは興味があるところをつまみ読みするのがおすすめです。2020/05/18
チェアー
9
まさに喫茶店のスクラップ帳。料理の仕方によってはもっと面白くできた素材と思うが、あえて魚屋の陳列のように、素材だけを見て、あとは各自でそれぞれの経験や思い出とともに料理すればいいということか。喫茶店が芸術や思想の孵卵器であることがよくわかる。逆に意地の悪い言い方をすれば、そうでない「喫茶店」はコーヒー飲み場でしかないと言えるのかもしれない。2020/07/29
がんもどき
7
日本人とコーヒー、カフェのかかわりについての私的まとめ、みたいな本だった。日本にコーヒーが入ってきた江戸末期から明治までを描いた前半はともかく、各種喫茶店と文壇とのかかわりを詳細に描いた後半は、その世代の人でないと分からないと思える部分が多かった。昭和末期~平成はさわりくらいにしか触れられていない。なので70~80歳向けの本かなと思う。2024/04/10
アメヲトコ
7
単行本2002年刊、20年文庫化。コーヒーとお茶の歴史から話を起こし、スタバの登場までの喫茶文化史をまとめあげた一冊です。文庫ながら註に索引までついていて、事典的にも使えそう。私は世代的に喫茶店に親しんだ方ではないので、上の世代であれば実体験をふまえて読めるのかなとも。個人的には代用コーヒーの系譜の話が面白く、明治時代にはオクラコーヒーなんてあったのね。2020/06/28