内容説明
反アパルトヘイトの嵐が吹き荒れる南アフリカ。末期ガンの70歳の女性カレンは、庭先に住み着いたホームレスの男と心を通わせていく。差別、暴力、遠方の娘への愛。ノーベル賞作家が描く苛酷な現実。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
128
世界から取り残されながらアパルトヘイトにしがみ続けた南アフリカ。人種闘争と貧困と暴力が日常の世に生きる群像劇は、末期がんの痛みに苦しみながら必死に生きるヒロインの老婦人と重なる。昼も夜も労役と苦悩のただ中にある祖国を娘のように捨てられない彼女は、自分なりの正義を固く信じることで恥を知る生き方を貫こうとする。周囲に嘲られ滑稽にすら見えながら、人を愛し信じるのをやめようとしない姿は遠藤周作が描いた無力な神に通じるものを感じた。神に見放された「鉄の時代」にあって、最後まで人を見捨てぬ神をクッツェーは求めたのか。2022/04/02
buchipanda3
105
苦悶と覚悟に満ちた語りが読み手の心を揺さぶる。それは終わりのない問いのようで、しかし語りが終わる時、彼女は閉じられ、全ての希望も閉ざされるのではという憂慮に駆られた。それほど著者の気概を感じた作品。死が現実となると知った時、カレンは自分の中にある愛への信頼が揺らぐ。自分に唾を吐いた浮浪者の敵意の眼差しは実は自分の眼差しと同じと気付いたから。目の前の社会に属する自分の恥、母親として白人として人間としての恥、まがい物の愛。手探りでいい。ただ自分の本当の愛を取り戻そうとする。その姿に生きる意味と強靱さを感じた。2024/04/09
toshi
83
南アフリカ出身のノーベル文学賞作家による、1990年の長篇小説。舞台はアパルトヘイトが色濃く残る1986年~89年の南アフリカ。主人公は癌が再発した白人の老婆で、娘に向かって綴られる遺書という形式を取って物語が進行します。直接的に人種差別反対を声高に叫ぶことはありませんが、行間から人間の愚かさや傲慢さが滲み出ており、色々と考えさせられます。時に観念的な表現も用いられるため、読み進めるのが困難な時もありましたが、読了後は何とも言えない快い気分になりました。2025/07/04
nobi
78
語り手となる老女を取り巻く世界は荒んでいる。家の周りには浮浪者がたむろし、出かければ殺風景な風景が広がっている。南アのアパルトヘイト末期。虚しさ、でなければ暴力で覆われた時代。そして内側には彼女を蝕んで行く異物が居る。その語りは愚痴めいて見えていても、なぜか復元力を感じる。自らへの問いかけは繰り返され次第に熱を帯び、うねりとなって、気づけば遥かな高みに昇っている。どこかマルクス・アウレリウスみたいな、と思った矢先、その引用があったりもする。救いがあるというのではない。でもその根源的な力には揺り動かされる。2022/04/06
マリリン
43
死へ向かう覚悟と混乱が伝わってくる。時代背景はアフリカのアパルトヘイト、護りたかった護りきれず奪われた生命、蟹が棲み蝕まれる身体、遠く離れて住む娘、最後まで寄り添ったファーカイル... 支離滅裂な感もあったが、この時代を生き抜くとはこういうことなのか...と。「死とはとどのつまり疲労の最終到達点」。老いとは? 人生とは? 平等とは?... 多くの問いかからは、答えを拒むかのような深い孤独が漂う。著者の圧倒的な筆力にただただ感動した。深い余韻を残した終焉が特に。2023/06/27




