内容説明
父・露伴が重態の床で教えてくれたのは、「母の座」というもの。家事雑用、浮世談義、自然への手引きに、一生残るような教えをしてくれた父。胸にまいた古い種が発芽し、奔走した塔の再建、木や荒涼とした崩れへの思い入れなど、晩年の心境を、研ぎ澄した五感が映す、心にしみる58篇。幸田文の息吹きを伝える随筆集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
87
心にしんしんと染み入る日々や自然は、老いと向き合った思いから紡がれているように感じました。誰にでも訪れる老いですが、その人なりのその時期の思いがあることを改めて気付かせてくれます。当たり前のことですが、遠い先のことのようで考えないこと。そんな晩年を月明かりが照らすように著者は優しく語っていました。残された日々はわずかなのに、尽きない興味と行動力。そして穏やかな目で見つめる過去の思い出。文さんの軌跡はとても輝いていたもののように思えてなりません。2016/11/29
優希
73
優れた感性は持ち主を養うのだと心に染み入ります。日々を老いと向き合った想いが紡がれているように思いました。誰にでもくる老いですが遠い先のように考えず、そんな晩年を月明かりが照らすと語られていました。幸せと呼べる日々とは言えなかったかもしれませんが、思い描く晩年は優しいものでした。わずかな残されたわずかな日々の中で、尽きない行動力と穏やかな過去。心に染み入りました。2019/06/01
双海(ふたみ)
28
ほんとうに幸田文さんはうまい随筆をお書きになったものだなぁ。随筆(エッセイに非ず)の名手。文さんに出会わなかったら、私が着物や浴衣を着ることもなかったのかもしれない。2015/05/23
わっぱっぱ
23
優れた五感はその人を守り、鍛え、養うのだなあと、文さんの本を読むといつも思う。文豪の父を持ったこと、早くに他界した生母と養母とのこと、女であること、、、自分で選べなかった環境は、彼女にとって必ずしも幸せとばかり言えるものではなかったろう。けれどそれらは彼女の財産でもあったに違いない。 ということは、いま私が不幸の根源と捉えているものも、実は私を知らず養ってくれているのか。そうとわかったところで苦恨に感謝することは難しいのだけれど、乱れた気持ちにアイロンがかかったように、呼吸が少し正しくなったのを感じる。2017/01/10
つー
4
ものの無かった時代、露伴から受けた厳しい仕付けが原点にある幸田さんの文章は、読むにあたってしばしば覚悟がいるというか、気後れを自分は感じてしまう。だが、いったん文章に触れると、四季折々の小さな美しさに目を向ける感受性や、いつも気持ちを前向きに保とうとする筆者のしなやかさなどが感じられて、なんとも読んで良かったな、という気持ちになる。本文中で筆者は「つまり私は、さがしたがりや、たのしみたがりやなのだ」と語っているが、この筆者の心持ちを、自分もいつも片隅に持っていたいなと思った。2020/05/26




