養蚕と蚕神 - 近代産業に息づく民俗的想像力

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養蚕と蚕神 - 近代産業に息づく民俗的想像力

  • ISBN:9784766426441

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内容説明

近代産業化と国家神道による信教の統制が図られた明治期にあって、なぜ養蚕業については農村での伝統的な家内制手工業が継続され、また「蚕神」という民俗的な信仰が維持されたのか?
歴史学・民俗学の知見、さらにはジェンダー的な視点も組み入れて、この問いに解を与える。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

アナクマ

28
ジェンダー・国策産業論はもとより、興味深い観点多数。◉快不快を育養の基準にする(お蚕さんにとっても気持ちがいい環境を最良とする)こと。実践教育に対する柳田の指摘(農家に比すると遊戯の如し。小役人の地位を捜索するは寧ろ自然なり)。変態する金色姫の民話(受難の伝説)など。◉愛でた蚕が蛹化し死を与える際の受容のしかた「皮膚を接近させ身体中の感覚を駆使して育てた…何十万という命が一瞬にして家の中から失われる…喪失感の蓄積」。ここに筆者=実際に養蚕に身をおいた者の身体知・思想の基点がある。体験はすべての起点だ。→2022/06/19

27
最盛期には4割もの農家が蚕を生育していたが、良質で均一な大量の生糸が求められたことで、メンデルの法則を利用した一代交雑種の蚕の卵が国家から供給され、自家生産は許されなかったというのにビビった。好きな蚕を育てると繭にくびれが出ちゃうからバレるらしい。それまでは年に一度しか生育しなかったが、塩酸で刺激を与えることで複数回生育することも可能となった。女性の身体的な感覚と共に生まれ、暑ければ移動させ、寒ければ女性の体で温め、繭を紡いで死んでいった蚕が国家によって統制されていく様に国家が管理する命をみる著者。2021/05/02

Olive

11
読友さんに刺激され再読。第二部を重点的に。 異国から日本に流れ着き、自らの死体を蚕に化生させた金色姫信仰は女性たちにどのような形で信仰されていったのかについて書かれている。 国にとっては俗神と見做された信仰が、敢えて野に放たれたことで、その信仰を根底に女性の身体性、精神性が育まれていく。養蚕信仰と安産信仰との重なりは、女性の身体がもつ産む力と蚕を育てる力との親密な関係を基盤として発展していったと筆者は推測する。 国家権力と民族宗教が相対立するでもなく、逆に俗神が国家イデオロギーに回収されていく。面白いな。2022/06/23

MrO

8
一言で言えば、近代化の再検討。養蚕というと女工哀史みたいな単純な視点にとどまらず、女性たちの身体感覚、蚕との共感、共生、金色姫という民俗信仰といった対立項がからみあい、お互いに変容を遂げらがら近代化が進行していった様子を生き生きと伝える。国民優生法が養蚕の国家管理から出てきていたことに驚いた。若手女性研究者ならではの労作であると感心した。2020/02/21

Olive

5
社会学者である著者が実際養蚕農家で3年にわたりフィールドワークをした研究書である。 日本の養蚕業は明治以降強固な国家イデオロギーに組み込まれ、科学知による技術改良と組織化が進められる。一方、天皇制国家は公には民俗神である蚕神(金色姫)を肯定していなかったが、あえて野に放つことで民衆の自由な民族的想像力でもって連綿と継続され、ひいては国策の推進力となった。産業化過程と民族的想像力の二本のレールの枕木は女性の手による技術の蓄積と伝説上の俗神である金色姫信仰であった。 2020/06/24

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