貨幣発行自由化論  改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析

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貨幣発行自由化論  改訂版――競争通貨の理論と実行に関する分析

  • ISBN:9784822288846

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内容説明

以下は、齊藤誠・名古屋大学教授の解説から――。

「こうして書いてくると、勘の鋭い読者は、「あぁ、暗号通貨のことね。フェイスブックだって、通貨を発行しようとする時代だからね」といわれるかもしれない。確かに、暗号通貨(cryptocurrencies)という革新的な金融技術が、ハイエクという天才の頭の中で考えた構想を実現する技術的な基盤を提供する可能性は十分にある。

しかし、ハイエクが「理想の通貨」(これは、ハイエクの言葉ではなく、私の勝手な強調)について突き詰めて考えたことは、ある意味、とても当たり前で、ずいぶんと地味なものであった。そんな通貨は、社会経済にとって大変にありがたいのだけれども、その通貨の発行者にとってそれほど儲かりそうにない代物なのである(もしかすると、持ち出しにさえなるかもしれない)。

それにもかかわらず、私的主体が格好のビジネスチャンスとして独自の暗号通貨を発行しようと競い、主権国家が、国際的な通貨覇権を握ろうと自前の暗号通貨を国際標準にしようと企てるかもしれない。暗号通貨をめぐるさまざまな思惑のために、通貨制度は頑健性を高めるどころか、その脆弱性を強めてしまいかねないのである。

ハイエクの構想では、政府の思惑とは独立に通貨制度が実体経済をしっかりと支える仕組みを作り上げることを意図していたが、暗号通貨という金融技術は、通貨制度を実体経済から引き剥がし、仮想空間の最果てへと強引に引き連れていく怖さがあるのである。言い方を換えると、暗号通貨技術は、「理想の通貨」にとって革新的すぎる可能性がある。」

目次

第1章 具体的な提案
第2章 基礎的な原理の説明
第3章 貨幣発行における政府独占の起源
第4章 政府特権の濫用の歴史
第5章 法貨の神秘性
第6章 グレシャムの法則をめぐる混乱
第7章 並行通貨と貿易貨幣
第8章 民間通貨の発行
第9章 発券銀行間の競争
第10章 閑話休題――貨幣の定義について
第11章 競争通貨の価値はコントロールできるか
第12章 どんな通貨が選ばれるのか
第13章 貨幣のどの価値が重要か
第14章 貨幣数量説が無用であることについて
第15章 通貨供給の望ましいあり方
第16章 フリーバンキング
第17章 全面的インフレ、デフレはもはや生じないか
第18章 金融政策はもはや不要かつ存続不能である
第19章 固定相場制より望ましい規律
第20章 国ごとに通貨圏を形成すべきか?
第21章 政府財政と支出への影響
第22章 移行期に検討すべきこと
第23章 国家からの保護
第24章 長期的展望
第25章 結論
解説 齊藤誠

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ころこ

33
通貨供給の望ましいあり方を考察している。政府は政治的思惑から通貨を緩和気味に誘導し、インフレを起こして経済不安が政情不安を招いている。国家の思惑に左右されない民間の貨幣が国家の貨幣の他に発行・流通されていれば、オルタナティブな民間通貨の影響を受けて、国家の通貨に対しても無茶な政策はとれないだろうという。暗号通貨よりも日本の金融緩和策の是非を考察するのに適しているのではないか。現在の日本は解説にあるマイルドなデフレ下で貨幣需要が国債消化の受け皿になっている状況だが、著者は失業の増加に警戒が無いようにみえる。2023/09/27

たか

5
国家による一国内での独占的な貨幣供給に疑問を呈し、民間による自由で競争的な貨幣制度を提唱する。アイデアを説明する過程で、貨幣の本質や金融政策・財政政策の意味が丁寧に解説され、意外にも読みやすかった。中央集権的な政府が誤った判断を行うインセンティブがあること、競争には設計主義的な発想では辿り着けない価値を発見する機能があることを信じている点に著者の思想の特徴があると思う。実務的・政治的な困難は山ほど思いつくが、信教の自由や貿易の自由も過去は夢物語であったと言われると、もしかすると…と思ってしまう。2024/03/07

sab

3
中央銀行による貨幣発行独占権を放棄させ、複数の市中銀行による貨幣発行を容認することを提唱。決済手段や価値貯蔵手段としての機能のためには貨幣価値の安定が必要不可欠だが、特にケインズ経済以降中央銀行の背後にある政府による野放図な積極財政が生むインフレが度々経済を混乱させてきたからである。それを防ぐためには市場の自動調整機能を使うことで貨幣の価値安定を行う、そのために民間主体に貨幣発行を行わせる。それも単独だとほかの商品と同様独占を生んでしまうため複数の銀行にそれを行わせるのだ、というのが主な主張。2023/04/30

山崎 邦規

1
ハイエクによる貨幣論である。貨幣発行の独占権を政府から取り上げ、民間銀行にその権限を与えて競わせるべきだと主張している。最初は一笑に付すくらいの印象だったが、次第にその立論によって現代にも尾を引いているインフレや失業問題などが緩和されるのではないかと夢心地になる。とはいえ、私には断定的に評価する素養が乏しいので、むしろ個々の文章に表れる経済学の知見が勉強になった。まだまだ文を一読してその意味する経済システムを即把握することは難しいが、やはり未知の領域に分け入るような読書は楽しいものである。2023/03/22

ぐっさん

0
民間で貨幣を自由に発行するとどういう影響があるかを書いた本。どの制度をとってもメリットとデメリットがあるので、細かい条件まで決めないと何とも言えないが、現在の制度を違って視点から見つめ直すためにはいいかもしれない。2020/05/08

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