内容説明
母の遺品整理のため実家に戻った邦彦は農道で般若の面をつけた女とすれ違う――(「面」)。“この世のものではないもの”はいつも隣り合わせでそこにいる。甘美な恐怖が心奥をくすぐる6篇の幻想怪奇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
132
小池さんの作品は面白いのですが、いつも男女の関係(浮気とか不倫)が引き金となったりして若干苦手な面もあるのですが、この作品集はそれでも楽しめました。「面」や「日影歯科医院」はかなり怖い印象が残りました。私が一番良かったと思ったのは「森の奥の家」で過去の思い出が中心となっているのですが最後に…、ということでどこかで読んだイメージが残りました。2023/11/30
ナルピーチ
127
夏の熱気が過ぎ去り、秋の夜長で涼しさを感じる季節に打ってつけの幻想怪奇小説集。農道の先、窓の向こう側、森の奥の山荘、木陰に佇む歯科医院などなど…。至るところに巣食っているこの世のものではない存在…。本書ではそれらを“異形のものたち”と呼んでいる。どことなく物悲しさを覚え、哀愁が漂うノスタルジックな雰囲気を醸し出してはいるものの、そこはやっぱりホラー小説。所々で恐怖心を煽るその筆致に全身に鳥肌が立つ程にゾッとして、同時にそれはとてつもなく甘美であり幽玄なる読書時間を生んでくれた。2023/11/08
じいじ
86
小池真理子の小説は恋愛モノを柱に読んできましたが、このところの暑い陽気ではホラーが面白くて、ちょいハマりしていました。今作の6短篇はどれも軽妙な筆さばきで、臆病者の私でも適度な怖さで愉しめました。さて、初めての歯医者に緊張感と恐怖感に苛まされるのは、どうも私だけではなさそうです。【日影歯科医院】も、寂れたかなり怪しい雰囲気の医院で、初めてでは行きたくありません。秋の夜中で、そろそろ小池さんの長編モノが読みたくなってきました。『モンローが死んだ日』『瑠璃の海』をスタンバイしてます。2023/10/21
sin
82
型どおりであるようでいて思いがけない破調を纏ったゴーストストーリーだ。どことなく独り善がりな感じを匂わす主人公たちの独白が物語の世界に読者を憑り依んでいって、突き放すかのように怪異に放り出す感じがする。解説で言及されるように収められた六作品はいずれ劣らぬ充実ぶりだが、中でも『山荘奇譚』は傑作…淡々とした語りが今様なTVドラマに最適なエンディングを迎える。他にも『ゾフィーの手袋』のラスト間近に描写されたイメージはゾクゾクなのに其のシーンを受けたエンディングは輪をかけてもろ冷えであった。2020/07/07
mocha
80
短編ながらどの作品もとても奥行がある。主人公の人生ドラマの中で、ふっと異界と交錯する瞬間。その情景や情念が静かに美しく描かれる。特に『緋色の窓』の、夢二の絵のようなムードが好き。2021/07/12