内容説明
私は子供を捨ててもいいと思ったことがある――。
衝撃のラストが議論を呼んだ直木賞受賞作。
カスミには、家出して故郷の北海道を捨てた過去がある。
だが、皮肉にも北海道で幼い娘が失踪を遂げる。
じつは夫の友人・石山に招かれた別荘で、カスミと石山は家族の目を盗み、逢引きを重ねていたのだ。
罪悪感に苦しむカスミは一人、娘を探し続ける。
四年後、元刑事の内海が再捜査を申し出るまでは――。
解説・福田和也
※この電子書籍は1999年4月に講談社より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
448
カスミは登場の時から薄幸と漂泊の影が付きまとう。捨てたはずの北海道に舞い戻ってしまう宿命もまたカスミの属性だ。そして、彼女はここではない何処かへの脱出を希求し続ける。しかし、長女の有香の失踪がすべてを変容させるのである。石山との非日常の不倫の恋も、森脇との堅実な(そして退屈な)結婚生活も。ここからカスミの漂流が始まるのだが、それは石山にとっても典子にとっても森脇にとっても予期せぬ漂流であった。桐野夏生のストーリー・テリングは息もつかせない巧みさである。サスペンスの与え方も実にうまい。期待を高めつつ下巻へ。2017/06/25
kaizen@名古屋de朝活読書会
211
直木賞】石山とカスミ。上だけ読んだ段階では、納得感はない。後ろめたい思いを、重苦しく書くのでは無く、さりげなく書いているようにも見える。なんとか読み進み中。人間の弱さ、ずるさの均衡をどこで図ろうとしているのだろう。著者の思いは下に進まないとわからないのかも。2014/01/26
yoshida
204
故郷の北海道を捨て東京に出たカスミ。不倫相手が購入した北海道の別荘を訪れる両家族。逢瀬のなかカスミの娘が姿を消す。4年の月日が流れ、関わった家族は壊れる。カスミは不倫が露見し帰る家と家族を失う。不倫相手も離婚し事業に失敗し若い女性のヒモとなる。流れる息苦しさと喪失感。カスミの薄幸さ。彼等と私の年齢が近く、私自身の境遇と重ね、再び人生をやり直せるとしたら、どうするかと自問する。実際にやり直すことは出来ないので今をどう生きるかが課題なのだが。読む年代で印象が大きく変わる作品だと思う。内海の登場で下巻が楽しみ。2018/10/14
ehirano1
191
これはのっけから読ませます。ページを捲るのが止まりません。不穏という意味では奥田英朗の「無理」や「邪魔」を思い出しますが、実は何よりカスミという人物を通して垣間見る哲学的箇所がすごく楽しいです。2018/03/17
あすなろ
131
留萌からの脱出。何処へ行くのか?漂流するのである。しかし、どれだけの男と結ばれ、子供が出来ても、相手を許すとか、相手に許されるという発想がカスミにはなく、その相手は自分だけなのである。そんな状況の逢瀬の刹那、子供を忘れても良いとカスミは思う。そしてそれは現実に!これも読んでみたかった桐野氏の直木受賞作。危うい転落を漂流しながら描く。そのまま下巻に突入したのであった。2018/01/03