内容説明
ローラの死後出版され、彼女を伝説の作家としてまつり上げることになった小説『昏き目の暗殺者』――人目を忍んで逢引を続ける男女と、惑星ザイクロンの王政転覆を企む貴族に雇われた盲目の暗殺者のふたつの物語に隠された秘密とは? 蜘蛛の巣のように絡み合う現在、過去、そして物語。「昏き目の暗殺者」とはいったい誰を意味するのか? 現代文学の数多の技法を駆使し、虚構の神殿を紡ぎあげるアトウッド文学の総決算。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
330
本書はミステリーの要素を持っているといわれたりもするが、通常のそれとは大いに違う。そもそも読了後にもいくつもの謎を残すのである。それはプロットのレベルにおいてではなく、より初源的なところに立ち返らされるといったものである。例えば、随所に挿入される新聞記事の内容は一応信じられるものとしても、その配列は奇妙である。アイリスの死が先に知らされるばかりか、往々にして手記に先行するからである。そもそも、この手記を書いたのは(あるいは『昏き目の暗殺者』を書いたのは)誰が、誰に向けてであったのか。かように読者は新たな⇒2023/09/11
キムチ
61
読むことは読んだとはいえ、余りの複雑な構造を読み明かすことは殆どできなくって、ため息で読了。「言葉は暗いグラスの中で燃える炎」またしてもアトウッドは言葉を掲げた。それをローラが丹念に紡いだ「昏い目・」あの中の語りがこう来るか。チェイス家の黄昏、夕日を受けて立つ新興ブルジョァの雄 リチャード。登場人物の背後に大恐慌と2つの対戦の惨禍が傷を残さないはずがない。最後まで生き残った老婆の語りは「アイリスvsローラ」が女であるが故の皮肉な運名を抜きにしては語れない・・生まれた命がそれを語り、皆の心に沈んでいる。2025/02/20
びす男
51
重層的なストーリーを、一つの真相が清算した。終盤には唸らされた■書くことについて、主人公は「せめて、立会人を求めている」と説く。人の声は、いつか消える。恨みも消えゆく運命なら、誰かに知ってほしいというのが人情だろう■ただ、彼女は表向きに言うよりしたたかだ。振り返れば、すべて仕掛けであった。とりとめもない思い出話も、ところどころ差し挟まれる「昏き目の暗殺者」の断章も。綿密に計算され、じじつその通りに作用している■なぜ書くのか。それは復讐のため。ここに書かれた手記と小説こそが、そう、暗殺者だった。2020/02/14
アプネア
26
女の悲哀や情念をこれでもかっと積み上げながら、因果律といったわかりやすい物語のルールが揺るがされ、覆されていく。善悪の基準に沿わない、より理不尽な大恐慌と二つの大戦によって、押し流された結果ゆえの混沌なのか…。なりたい自分も分からずにもがく姉妹の物語なのだと思っていましたが、終盤、誰に向けた話といった点で、この入れ子構造はより鮮明さをいや増し、昏き目の暗殺者の姿が浮かび上がる。そう、人が伝えるのはDNAだけではない。人は物語として他者に宿ること出来る。その他でもない誰かの中で生き続け、語り継がれるのだ。2020/01/10
わたなべよしお
22
残念なことに私には、この作品を十分に楽しめなかった。最後まで読ませるだけの力を持った作品ではあったし、生きることの「孤独」もじわじわと感じさせた。しかし、この物語の重層性を感得することもできなかった。「侍女の物語」の方が良かったかなぁ。2019/12/01