内容説明
繁あねは女のエッセンスである。――山口瞳(作家)艶やかに、ときに凜とし、ときに意地悪く――。作家が見つめた女という生き方とは。木場の畔に暮らす作家の私。釣竿をおろす私に突然声をかけてきたのは、繁あねだった。年は十二、三、妹と二人両親に捨てられ、肌にはひどい腫れ物があり、その生い立ちのため人に対して好戦的であることから、町でもその娘を引き取る者はいなかった。少女から女に変わる途上の繁あねとの会話を通し浮かび上がる、その生の在り方や人間の美しさ。表題作「繁あね」のほか、「この女とは一緒にいてはいけない……」そう思い別れた女・おさんへの複雑な思いから、その消息をたずねる男。おさんは、移り住んだ家に次々に男を引き込んでいると聞くが……。女の生を通し、人の心、男女の想いのありようを艶やかに描き出した名作「おさん」など。女性の美しさ、その生の在り方を艶やかに描く名作七篇。
目次
1:おさん
2:三十二刻
3:柘榴
4:つばくろ
5:あだこ
6:蜜柑の木
7:繁あね
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
71
「女」を主人公にした七話の短篇。山周さんの描く「女」は、俗に言われる外見の美しい女ではない。ここに登場する七人の女たちは、気丈でまっすぐで力強い女たちである。【表題作】は、作家山口瞳がベタ惚れの女だそうだ。まだ12・3歳の初心な娘だが「内股は少女期を抜けようとするふくらみっを見せている…」と本文でも生唾モノ。【あだご】許嫁に逃げられて家に籠る若手武士を(誰の命令を受けたのか?)或る日、笑顔が可愛い娘が来て、甲斐甲斐しく身の回りの世話を始めます…。この娘、恩着せがましくないのがないのがサイコーです。2025/03/08
kei302
34
文字が大きくて読みやすい。さらに、漢字が少ないので視覚的に柔らかい印象。「女のエッセンス」の強い「おさん」「未完の木」「繁あね」(この3作は男のロマンが創り出した妄想)よりも、凜とした芯のある女性の「三十二刻」「つばくろ」「あだご」が好み。シンプルな行動原理と自らの生き方を粛々と受け入れている姿に胸を打たれた。生きていく術を習得している「あだこ(ふさ)」の真っ直ぐさがいい。2019/10/29
ポメ子
9
山本周五郎が描く、美しい女性の短編集。 「おさん」と「あだこ」が、印象的だった。 『青べか物語』からも、二編、掲載されていて、これを機会に青べか物語も読んでみたいと思った。2020/04/29
tomoka
9
「つばくろ」より『だがこの苦しさには馴れてゆけるだろう。』苦悩や悲しみは時間が解決するというけれど、ただ慣れていくことだと分かってきたこの頃。私も歳を取ったかなぁ.....。2019/11/03
路地裏のオヤジ
7
「あだご」がよかった。2020/03/01