日本のヤバい女の子 静かなる抵抗

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¥1,540
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日本のヤバい女の子 静かなる抵抗

  • 著者名:はらだ有彩
  • 価格 ¥1,540(本体¥1,400)
  • 柏書房(2019/09発売)
  • ポイント 14pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784760151509

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内容説明

引きこもっていたのに働かされるアマテラスオオミカミ、妊娠したら男に「ホントに俺の子?」と疑われるコノハナノサクヤヒメ、恋人と引き離されて石化する松浦佐用(まつらさよ)姫。見知らぬ男にさらわれる絵姿女房。日本の昔話や神話に登場する、理不尽な目に遭う「女の子」たち。

──でも、みんな本当に平気だったのでしょうか。怒っていなかったのでしょうか。

著者は、怒りや悲しみをスルーされてきた昔話の女の子たちの素顔と本心に向き合い、彼女たちがどんなふうに「抵抗」してきたのかとことん語り合う。時に痛切で、時に痛快な、命を懸けた多種多様の異議申し立ては、現代の私たちにきっと力を与えてくれるはず。

優しくて、パワフルで、軽やかなイマジネーションが、千年前の女の子たちとあなたを自由にする新感覚エッセイ「日本のヤバい女の子」第2弾。女の子たちがわいわい語り合う4コマ漫画も収録。


【著者】
はらだ有彩 Harada Arisa
関西出身。テキスト、テキスタイル、イラストレーションを作るテキストレーター。デモニッシュな女の子のためのファッションブランド《mon.you.moyo》代表。2018年5月、『日本のヤバい女の子』(柏書房)を刊行。新聞・雑誌・ウェブメディアで、小説、エッセイ、漫画を発表している。本書のイラストも担当。

公式サイト:https://arisaharada.com/
Twitter:@hurry1116
Instagram:@arisa_harada

[はじめに全文]

降ろされた幕をこじ開けて、物語の続きを

昔話の中には、理不尽な目に遭う女性がいます。彼女たちは奪われたり、捨てられたり、無理やり結婚させられたり、重責を背負わされたり、ナメられたり、敬遠されたり、ときには殺されたりします。
たとえば、「古事記」「日本書紀」に登場するコノハナノサクヤヒメは、妊娠したお腹を指して「ホントに俺の子?」と疑われます。同じくアマテラスオオミカミは引きこもるほど心に傷を負っても働かなくてはなりません。「絵姿女房」は会ったこともない男に攫われます。「松浦佐用姫」は社会に愛する人を奪われました。身体を揶揄されたり、一度ならず二度も命を奪われた女性たちもいます。
物語はなぜか、彼女たちの悲しみや苦悩をなんとなくスルーしたまま進んでいきます。
――そういう話だから。そういう風に決まっているから。

でも、みんな、本当に平気だったのでしょうか。怒っていなかったのでしょうか。

怒っていいんだよ、と言われる、言える時代になってしばらく経ちました。いやだと思ったら声を出せる。運命だと受け入れず、拒否したり、怒りをあらわにできる。
それでも、怒るのは難しいことです。始めるのも持続させるのも体力を消耗します。「また?」と面倒な顔をされたり、その瞬間の表情を切り取って感情的だと言われたり、すぐに十分な手ごたえを感じられない場合もあります。怒りが薄れていくことに罪悪感を抱くこともあります。

昔話の中には、取り返しのつかない罪を犯してしまった女性もいます。裁かれる彼女たちの横顔を「うつくしい悪女萌え」と持て囃す視線はあれど、「どうしてそんなことをしたの」と聞く人は多くありません。生まれながらにして悪逆非道だったのか、それとも救済の欠如によって、悩み、後悔しながら人ならざるものに変わっていったのか。限界を迎えてしまう、もっともっと前に怒ることができていれば、破滅に向かわずに住んだのか。いずれにせよ彼女たちの罪の理由もまた、なんとなくスルーされたままです。
――女というのはそういう生き物だから。そういう風に決まっているから。

昔話を見渡して、ふと気づいたことがあります。

もしかしたら、怒りを表現する方法は一つだけではないのかもしれない。泣いたり、暴れたり、叫んだりしていないからといって、怒っていないとは限らないのかもしれない。
たとえば――

楽しく暮らすこと。サボること。
全然話を聞かないこと。真実を教えないこと。
ずっと忘れないこと。二秒で忘れること。
ここに立っていること。消えてやらないこと。
生きていること。生きていたこと。

静かだけど、これらも確かな抵抗の表明なのかもしれない。人々を尻目にニヤリとしている女の子を、あるいは気づかれずにがっかりしている女の子を、自分でも知らないうちに奮い立っている女の子たちを追いかけて、呼びとめて、「あの時」考えていたことを聞いてみたい。
これは昔話の女の子たちと「ああでもない、こうでもない」と文句を言いあったり、悲しみを打ち明けあったり、ひそかに励ましあったりして、一緒に生きていくための本です。



この本は、二〇一八年に刊行した『日本のヤバい女の子』を読んでいても読めるし、読んでいなくても読めるようになっています。

目次

【目次】
はじめに 降ろされた幕をこじ開けて、物語の続きを

I どうしても欲しい女の子たち
CASE STUDY 1 オタクとヤバい女の子 鬼を拝んだおばあさん
CASE STUDY 2 年齢とヤバい女の子 辰子姫(辰子姫伝説)
CASE STUDY 3 略奪とヤバい女の子 鬼女 紅葉(紅葉伝説)
CASE STUDY 4 罪とヤバい女の子 八百屋お七(好色五人女)
BACK STAGE 1 【マンガ】愛の真理

II 許さない女の子たち
CASE STUDY 5 嘘とヤバい女の子 磯良(雨月物語)
CASE STUDY 6 後戻りとヤバい女の子 宇治の橋姫(平家物語 剣の巻)
CASE STUDY 7 運命とヤバい女の子 累(累ヶ淵)
CASE STUDY 8 身体とヤバい女の子 ろくろ首 およつ(列国怪談聞書帖)
BACK STAGE 2【マンガ】嵐の後

III あれこれ言われる女の子たち
CASE STUDY 9 腕力とヤバい女の子 尾張の国の女(今昔物語)
CASE STUDY 10 嫉妬とヤバい女の子 山の女神(オコゼと山の神)
CASE STUDY 11 矛盾とヤバい女の子 北山の狗の妻(今昔物語)
CASE STUDY 12 期待とヤバい女の子 アマテラスオオミカミ(古事記/日本書紀)
BACK STAGE 3 【マンガ】性格の不一致

IV抵抗する女の子たち
CASE STUDY 13 意思とヤバい女の子 松浦佐用姫
CASE STUDY 14 新生活とヤバい女の子 絵姿女房
CASE STUDY 15 下ネタとヤバい女の子 尻を出した娘(鬼が笑う)
CASE STUDY 16 男とヤバい女の子 姫君(とりかへばや物語)
BACK STAGE 4【マンガ】仁義なき戦い

V 運命を切り開く女の子たち
CASE STUDY 17 花とヤバい女の子 コノハナノサクヤヒメ(古事記/日本書紀)
CASE STUDY 18 友達とヤバい女の子 ちょうふく山の山姥
CASE STUDY 19 「あげまん」とヤバい女の子 炭焼長者の妻(炭焼長者[再婚型])
CASE STUDY 20 証明とヤバい女の子 山姥と百万山姥(能 山姥)
BACK STAGE 5 【マンガ】ばったり

あとがきマンガ メイキング・オブ・日本のヤバい女の子 静かなる抵抗
レポマンガ   日本のヤバい女の子・ゴー・大報恩寺
参考資料

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

☆よいこ

76
昔話の新しい考察[Ⅰ:どうしても欲しい女の子]鬼を拝んだおばあさん/辰子姫/鬼女紅葉/八百屋お七[Ⅱ:許さない]磯良(雨月物語)/宇治の橋姫/累(累ヶ淵)/ろくろ首およつ[Ⅲ:あれこれ言われる]尾張の国の女(今昔物語)/山の女神(オコゼと山の神)/北山の狗の妻/天照大御神[Ⅳ:抵抗する]松浦佐用姫/絵姿女房/尻を出した娘/姫君(とりかえばや物語)[Ⅴ:運命を切り開く]木花咲耶姫/ちょうふく山の山姥/炭焼き長者の妻/山姥と百万山姥▽「超生きてる」彼女たちの生き様を知ることでなんか勇気を貰える気がする。2022/10/22

かおりんご

26
昔話や神話、言い伝えに出てくる女の子達を、独自の視点から読み解く、なんともまあフェミニズムな本。これ、第二弾だったんですね。だから、マイナー系が多かったと。こういう見方をして、童話なんかを読んだことがなかったから、新鮮でした。アマテラスの岩戸の話で神様が裸になって踊ったり、鬼から逃げる際にわざわざ下半身を露わにして笑いを誘ったりするところに、昔から下ネタを笑いにする文化があったことに驚きを感じました。2019/12/01

ほんわか・かめ

23
「鬼を拝んだおばあさん」が載っていると聞いてそこだけでも読めればと思っていたが、ついしっかり読んでしまいました(笑) だって、周囲から否定されようと“推し”を止めなかったという解釈が素晴らしすぎて!その他、古事記や今昔物語、雨月物語などに描かれる理不尽な扱いを受けた女性たち。しかしそんな境遇に甘んずることなく、彼女たちは静かにしたたかに抵抗していたんじゃないか、自ら運命を掴み取ったんじゃないか、と言う視点で掘り下げられています。文章は痛快ですが、著者の視点はあくまでも温かく、新たな視点で楽しく読めました。2022/03/03

ニョンブーチョッパー

20
★★★★★ 第一弾と比べるといくぶんマイナーなラインナップだったせいかやや、パワーダウンの印象。でも、前著と同様、様々な昔話の女子たちの気持ちをすくい取る姿勢がとにかく好印象。何百年も後の現代にこうやって気持ちを理解しようとする試みをする人がいることに本人たちも喜んでいることだろう(創作だんだろうけど)。一番グッと来たのは「アマテラスオオミカミ」。あとがきに書かれた「題材にする昔話を探す方法」が興味深い。2019/11/25

くさてる

16
「あったかもしれない、なかったかもしれない世界線の女の子たち」。神話や昔話、伝承に登場する女の子たちを紹介しながら、そのなかに見え隠れする彼女たちの心情や運命をくみとって、こうであっても良かったのでは、こんな感じじゃなかったのと考えていく。それを読んでいくうちに、わたしが思うのは、このヤバい女の子たちみなが幸せであってほしいよという思い。そしてその女の子たちがみな今に生きるわたしともつながってる、そんな感じです。おすすめです。2019/09/21

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