内容説明
二十世紀を代表する歴史家ホイジンガが、フランスとネーデルラントにおける十四、五世紀の人々の実証的調査から、中世から近代にかけての思考と感受性の構造を、絶望と歓喜、残虐と敬虔の対極的な激情としてとらえ、歴史の感動に身をおく楽しみを教える。中世人の意識と中世文化の全像を精細に描きあげた不朽の名著。
【目次】
第一版緒言
Ⅰ はげしい生活の基調
Ⅱ 美しい生活を求める願い
Ⅲ 身分社会という考えかた
Ⅳ 騎士の理念
Ⅴ 恋する英雄の夢
Ⅵ 騎士団と騎士誓約
Ⅶ 戦争と政治における騎士道理想の意義
Ⅷ 愛の様式化
Ⅸ 愛の作法
Ⅹ 牧歌ふうの生のイメージ
ⅩⅠ 死のイメージ
ⅩⅡ すべて聖なるものをイメージにあらわすこと
史料解題
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kasim
31
百年前の名著で、現代は修正された部分もあるのだろうけどとても興味深い。騎士道の名誉、愛の讃美、聖人崇拝、いずれも正統なキリスト教との矛盾を根本に抱えており、その緊張が次第に持ちこたえられなくなっていく。聖性の分かり易いイメージ化が、神もあまたの聖人も同列にしてしまうことで庶民の脱線を招いたというのは、ネット社会の混沌さえ連想させる。○○公が、といきなり言われても「あの人か」と分かるので、ブルゴーニュ公四代を予習していてよかった。下巻へ。2019/12/05
塩崎ツトム
20
社会にはエネルギーが蓄積されている。ペスト禍の後は商業も発達し、金権主義的雰囲気が席巻した。イギリスとフランスは対立するが、フランスは内戦の気配となり、教会も分裂している。社会はエネルギーの捌け口を求めるが、宗教は聖俗があまりにも一体化しすぎてその熱意の捌け口を失い、新勢力オスマンはあまりにも強く十字軍の機運も盛り上がらない。そのそも教皇庁が二つに割れているのだから土台無理である。そのエネルギーが社会改良や科学に費やされるわけでもなく、ひたすらぜんまいのように巻かれ続けていた。(つづく)2025/07/20
roughfractus02
8
中世の終末の徴候をラテン語の公式文書でなく、絵画やレリーフや物語や俗語史料に読む著者は、ネーデルランドを中心とした中世末期(14,15世紀)、キリスト教信仰に「塩漬けにされ」て出口も見えず、陰鬱さと軽薄さの両極端を振幅する時代に残酷なまでに振り回される人々の熱情を感じ取る。騎士道思想が忠誠と報われぬ愛を至上の目標とし、牧歌的生や聖なるものが美的かつ倫理的象徴となるのは、貪欲さによって野蛮な呪詛や復讐の闇へ陥る熱情を、様式の力によって制御するためである。終末に向かう時代には血の匂いと薔薇の香りが混ざり合う。2019/03/17
Copper Kettle
6
主に15世紀のフランドルとブルゴーニュにおける当時の書物などを丹念にあたって、中世の世界に生きた人たちの意識を読み取っていく。のだけど、いささか予備知識がないと難しいと感じる箇所もいくつかあった。上巻では主に騎士道と愛(「ばら物語」)、死、そしてキリスト教の聖者を扱った章が印象的だった。騎士道のあの形式ばった所作が求められる背景や聖者が庶民の生活に根づいて行った経緯とかは興味深く読ませてもらいました。下巻も頑張ります。2022/08/15
Fumoh
5
この書を読んで驚きました。素晴らしい歴史書でした。ヨーロッパ中世期というと「暗黒時代」と形容されるほど無知と迷信、欺瞞と隷属にあえいでいた時代だというイメージでした。そしてルネッサンスの方が人間的に優れていると……わたしはいろいろな過ちをこの書によって正されたような思いです。ルネッサンスが「目覚め」のようなものであったものは間違いない。しかし単純な「進化」と決定づけてしまうのはどうでしょう、というのがホイジンガの概ねの主張です。確かに中世は下らない妄想や迷信のはびこった時代でした。知性がなく、貧弱な文化で2025/05/18