内容説明
〈セクター12〉に到着したチャーリーは、ナイトウォーカーを食べると言われている局長トッカータをはじめとして変人ばかりの冬季取締局のメンバーたちと働くことに。
さらに〈セクター12〉で噂される、“伝染性の青いビュイックの夢”を見た彼は冬眠薬モルフェノックスをめぐる謎と奇妙な事件に巻き込まれてゆく。
その夢は見たひとを殺すというのだが、何人ものひとが同じ夢を見るなんてことがありえるのだろうか?
そしてチャーリーはベルギッタを守ることができるのだろうか?
奇才ジャスパー・フォードによる、厳しい冬の中の切ない夏の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シキモリ
22
ボーイミーツガールを想起させる甘酸っぱいタイトルと裏腹に、物語はハイバーテック社による【ラザロ計画】の核心へと迫るサスペンスの様相を呈していく。今作は巻き込まれ型主人公の成長譚としても楽しめるし、序盤から張り巡らせた伏線をきっちり回収するプロットの妙も味わえる。しかし、初読でこの特異な世界観を読解するのは至難の業だろう。ロマンス要素は味付け程度ゆえ、邦題のミスマッチ感は拭えぬまま。この手の作風を好む本来の読者層に届く機会を逸している気がしなくもない。常時眠りの浅い私は、夢見心地よりも熟眠が恋しい限りです。2020/12/25
もち
18
「あなたは、自分で思ってるよりずっと立派で賢いんだよ」◆浜辺のパラソル、スパイの会合、博士の最期。夢見る能力のせいで、チャーリーは各陣営から狙われていた――。掟に従い、冬に散った遺志を継いだ彼は、恋した女性を救うため、夢の世界を渡り歩く。■凍てつく環境でしか描けない、夢と死と愛の冒険譚。酷寒の厳しいルールの下、人物たちは懸命に生き、騙し、殺され、何かを遺していく。見かけ通りのものなど一つもない街。実直さと歪な思いやりを縁に、青年は眩い春をもたらす。2020/02/12
ヴィオラ
15
最近Twitterで◯◯パンクの話題が出ているので思ったんですが、アイスパンクとかウインターパンクとかスノーパンクとか、そんなまとめ方の作品群が無いものか？などと思いながら読了。面白い！タイトルで敬遠してる人がいたら勿体ないから読んでw 巻き込まれ型の主人公が、次々襲いくるピンチを知力と機転で乗り切っていく痛快エンタメSF（少し違うw）人々が冬眠する世界という「大嘘」を、細かなディテールで補完しながらキチっと仕上げてくる筆力はさすがです。フォードさんが再評価されて、あのシリーズが復刊・続刊されん事を！2020/06/06
medihen
14
上巻で思う存分積み上げた世界観のポテンシャルをベースに、下巻は怒涛のハードボイルド・サスペンス展開へ。暗く寒く冷たい冬と、温かい寝床にこもって眠るヌクヌクした安楽な感覚のコントラストを強く感じさせるのが、この小説の独特なところか。主人公が社会の安全を守る取締官というコワモテな立場なわけだが、守るべき対象が「安逸な眠り」ということで、穏やかな温かさや独特の喪失感を感じさせる。＜続＞2020/11/12
スターライト
13
どこにでもいそうな青年チャーリーが、持ち前の機転を利かして数々のトラブルを回避しつつ、恋する相手ベルギッタへの思いがハイバーテックの悪行を阻止していく。多くのキャラクターが入り混じり、一度表舞台から去ったと思われた人物が登場する場面では正直混乱したが、そのスピーディーさも本作の物語を疾走させる重要な要素なのだろう。夢を題材にした作品は少なくないが、その系譜に確実に足跡を残すものとなるだろう。上下巻合わせて約700ページのというヴォリュームだが、長さを感じさせないエンタテイメント作品。2020/05/14
