内容説明
小説『楢山節考』で異色の文壇デビューを果たした著者が、正宗白鳥、武田泰淳、井伏鱒二ら、畏敬する作家たちとの奇妙でおかしな交流を綴る抱腹絶倒の文壇登場日記。他に「思い出の記」「十五のポルカ」を収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
駄目男
18
以前から、この人の名こそ知れ作品を読んだのは『笛吹川』しかない。もちろんギタリストであったことも知らない。然し何と言っても深沢氏を有名にしたのは『楢山節考』だろう。昔、緒形拳主演の映画を観に行ったことがある。山に捨てられるお婆ちゃん役を演じたのは坂本スミ子で、なかなかの好演だった。その深沢氏はこの日記の中で自分をコケにしているのか、出来が悪いだの、ものを知らないだのと、何か知らないことがあると先輩作家のところに行っては質問する。確かに前半の書きっぷりでは凡そ作家には似つかわしくないような幼い文体。2023/02/14
Moeko Matsuda
8
勝手に期待しすぎてしまっていたのか、前評判を見て想像していたよりうんと面白くなかった。しかし、まぁとりあえず読んだな、という満足感はある。後ろの方の、ポルカシリーズは面白かった。2022/10/28
かわかみ
6
「生きているのはひまつぶし」では、ニヒリズムすれすれのリアリストと言う風情の著者だったが、44歳の昭和33年に発表された本作には、稚気とユーモアに溢れた半分悪ふざけのような文章が並んでいる。その間の消息を知るには、「風流夢譚」や「流浪の手記」を読むことが必要なようだがペンディングにしておこう。一点だけ。本書の中の「ささやき記」で著者は楽譜に向かってギターを弾いていると、作曲者の表情や生活が瞼に浮かび自然に物語が現れてくると凄いことを言っている。もしかすると、読まなかった方がよかった一文かも知れない。2023/03/09
ライム
5
晩年は有名・無名を問わず自宅に多数の人を招いたとの逸話で知られる著者。本書によれば、まだ新人作家だった頃の著者は、先輩の大物作家たちの家に赴いて勉強していたのだなあと分かる。何も知らないで恥をかいたとの話を軽い文章で暴露しているが、作家としてやる気に満ちている感じが伝わる。でもかつての本職である、ギターの方も練習を全く怠っておらず、作家と交流しつつもマルチな活動しようとしている所も新鮮で珍しい。「ポルカ」シリーズの様々な作風の短編は「楢山節考」と全く異なる世界観でこれも面白い。2025/12/27
格
4
40代で『楢山節考』というとんでもない処女作を引っ提げて文壇に登場した深沢七郎。時期的にはデビュー直後にあたる本書には、日々をのらりくらりと生きる作家の姿と同時に、身辺の変化に対する戸惑いも垣間見える。正宗白鳥に菊正宗の跡取り息子かと聞いてみちゃったりする姿には、どこまで本気なのか分からない感じがよく出ているし、僕の抱いているイメージにも合致する。交流関係の幅広さは意外で、急に石原慎太郎が出てきたのは驚いた。確か中上健次が何かで「深沢七郎翁」と呼んでいた気がするが、本当に「翁」が良く似合う不思議な人だ。 2020/10/04




