- ホーム
- > 電子書籍
- > 教養文庫・新書・選書
内容説明
自分のまっとうな努力で得た徳(アレテー)のみが人の真の価値と真の幸福の両方を決める。そして徳(アレテー)の持続的な活動がなければ人は幸福ではない。と考えたアリストテレス。上巻では幸福とは何かを定義し、勇気と節制、正義、また気前の良さ、志の高さなど、人柄の徳(アレテー)について考察する。若者が自分の人生を考え抜くための書物、倫理学史上もっとも重要な古典です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
130
「知るための知」である論理学に対して倫理学は実践性重視。国家と個人の善は必ずしも一致しないと師のイデア論とは異質の現実主義な視点で、形相の本質としての普遍と個別を常に意識している。人柄の性向は習慣で形成され、悪徳が染み付いたら矯正は難しいと、若者に日々の行為に重みを訴えるような徳論が占める上巻。行為と自発性と選択に関する議論は長年にわたる自由と道徳的責任の研究の賜物で、人柄との反響関係は著者ならではのダイナミズム。「中間」を追求する「人柄の徳」「正義の徳」が野心的。卑屈になったら哲学も幸福も成り立たない。2023/01/24
molysk
64
人生における幸福とは何か。すぐれた徳(アレテー)を身に付けて、それに基づいてすぐれた活動をなすことである、とアリストテレスは説く。人は分別(ロゴス)によって欲望や感情をコントロールするとして、すぐれた分別そのものを「知的な徳」、すぐれたコントロールを「人柄の徳」と分類する。上巻で論じる「人柄の徳」について、すぐれた徳は善い行動の継続によって身に付く、と提唱する。幸福をもたらすのは、生まれつきでも財産などの外的要因でもなく、まっとうな努力で得た徳である、とするアリストテレス倫理学は、現代でも輝きを失わない。2023/01/07
かわうそ
46
『悪とは自らをも滅ぼすものであり、それゆえ、もし悪がまとめて全部そろうなら、そのようなものはかならず、人にはとうてい耐えられないものになるからである。』296 そういえば最近また読み直している『1Q84』でDVをしている男の暗殺を命じる老婦人が登場するのだけれど、「私たちは何ら悪いことはしてないのだし正しいことをしているのです。」と主人公の青豆に向かって言う場面が時々ある。正当化しなければ悪を長い間、人間が心に持っておくということは不可能なのかもしれない。ということは完全な悪は存在しないのだろうな。2023/10/31
ころこ
41
文体が簡潔で、各章が短く、見た目よりも情報量が少ないです。次章に前章のまとめがある章があり、意外と現代的です。議論が論点先取な個所もあり、現代の文章に比べれば議論が十分に展開されているわけではありません。とはいえ、難しい概念や前提となる知識、哲学史の文脈がほぼ無く、よく分からないが意外とスラスラ読んでいけるぞ、という感じだと思います。上巻では、幸福を追求するには善いことを行う性向であるアレテーを身に着ける必要がある。このアレテーを多角的に考察している中で、様々な倫理的価値に関する議論が行われています。2021/10/18
かわうそ
38
『つまり不正な人は、限定ぬきには善いものであるが、或る人にとってはつねに善いとはかぎらないような「善」にかかわることになる。』332 つねに善とはかぎらないものとは富などである。富はある一定の条件の元に置かれることで初めて善なのである。つまりは手段でしかないのであって手段は目的の支配下にあることで善となるのである。この最大の目的こそがアリストテレスが語る最高善に他ならない。目的が選択を作り、選択が性向を作るのであって決してその逆ではない。アリストテレスの率直さを味わえる最高の作品。2025/04/12