内容説明
ネット通販時代のインフラと化した宅配が止まる? ヤマトショックは物流危機を顕在化させた.その真の原因は,物流現場の労働問題にあった! トラックドライバーの過酷な現実と様々な統計調査から,現代日本が直面した危機の実態を明らかにする.社会を維持するコストを負担するのは誰なのかを真剣に議論するときが来た.
目次
目 次
はじめに
第1章 宅配が止まる?──ヤマト・ショックから考える
1 ヤマト運輸の「サービス残業」問題
2 「即日配達」と「送料無料」──ネット通販以後
3 「お客様のために」──形骸化していったルール
4 社会を維持するコスト
第2章 休めない、支払われない、守られない──トラックドライバーの現実
1 物流の九割を占める日本経済の黒衣
2 ドライバーを取り囲む法制度の「抜け穴」
第3章 悩む物流──なぜこんなに安く荷物が届くのか
1 激化する業界競争
2 賃金の低下と成果主義の強化
3 物流二法は何をもたらしたか
第4章 経済のインフラを維持できるか──持続可能性の危機
1 危機の解決策はあるのか
2 深刻化した人手不足
3 「適正な料金」に向けて
4 運賃が先か、賃金が先か
5 荷主を巻き込む
第5章 物流危機が問いかけるもの
1 「適正」な企業が淘汰され、「不適正」な企業がはびこる
2 「高い質を安い価格で」の限界
3 ルールづくりの重要性
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
94
本書からの抜粋「著者は、物流の専門家ではなく、労使関係の研究者である。ゆえに接続可能な物流システムや物流部門の収益性を高める方法を論じることはできない。本書は、あくまでも物流の現場で起きていることを労働問題として捉え直し、労使関係の観点からその解決策を考える」便利な宅配の一方で配達する側の問題点はメディアにもよく登場する。トラックの自動運転やドローンの話もあるがまだまだ実用性はない。配達に携わる者の立場に立って考えていくことの必要性を強く感じた。図書館本2019/01/16
ホークス
56
仕事の本。ここに書かれたドライバーの過酷な状況は、ほぼ事実である。多少知っていたが、改めて詳しく解説されると暗澹たる気持ちになる。著者は労使関係の学者で、実に淡々と感情を込めずに書いているが、それでも十分酷さが伝わる。零細業者が多い事、時間管理が難しい事など要因はあるが、それだけではない。「空気を読んで自分を圧し殺す」日本的感性が、非常に悪い形で発揮されているのだ。学校みたいに振る舞う企業も、それを抵抗なく受け入れる側も、何かが麻痺している。この風土でダイバーシティを謳うのはやっぱり無理がある。2019/02/19
けんとまん1007
41
物流は経済の血管・・既知の言葉であったが、今回、改めて再認識。その血管が、いかに脆い危うい状況にあるのかが、論理的に綴られている。便利さ、荷主の我儘、それをさらに追い込む政策の先にあるのが、ドライバーの人たちへのしわ寄せ。それを、享受しているのが今のこの国でもある。中に書かれているブラジルの事例は、いつ起こっても不思議ではない。改めて、経済とは、暮らしとは何かを考えざるをえない。持続可能な・・というフレーズをよく耳にするようになったが、表面面だけが多いのではと思う。2019/10/31
あきあかね
35
「私たちが得ている「安さ」や「早さ」が、働く者の長時間労働や過労死と引き換えに存在するならば、それは果たして社会的公正に適うのか。」 著者の問題提起は重い。物流の9割を担うトラック輸送では、安い運賃、長時間の労働、強いられる荷物の積卸しなど、様々なひずみが生じており、高い質を安い価格で提供することは最早限界を迎えている。 ネット通販の浸透で宅配便の取扱個数が増加の一途をたどり、2割に及ぶ再配達や即日配送の負担がドライバーに重くのしかかる一方、大口顧客からは値下げ圧力を受ける。⇒2019/09/28
koji
25
労使関係の研究者が、労働の観点から「物流危機」をもたらした原因を明らかにする書。ドライバーの視点だけでなく、監督者、労働組合、荷主、監督官庁、政治家、消費者の関わりまで含めて、歴史を遡って、綿密に多面的に分析しています。物流危機の犯人探しではなく、ドライバーの人権が守られ、豊かな生活を送るにはどうすべきかが提起されます。それにしても感じるのは、問題を複雑にした失敗の歴史は決して覆せないということと、大衆消費社会の行き着いた先の恐ろしさ。対策の難しさはありますが、時代の後押しがある今がチャンスと感じました。2019/04/01