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内容説明
大正教養主義の代表者・阿部次郎。その著『三太郎の日記』は自己の確立を追求した思索の書として、大正・昭和期の学生に熱烈に迎えられた。だが、彼の人生は、そこをピークに波乱と翳りに包まれていく──。本書は、同時代の知識人たちとの関係や教育制度から、阿部次郎の生涯に迫った社会史的評伝である。彼の掲げた人格主義とはいかなるものであったのか。落魄のなかでも失われなかった精神の輝きに、「教養」の可能性を探る。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
軍縮地球市民shinshin
12
教育社会学者・竹内洋の本はどれもおもしろい。内容的には結構難しいものばかりなのだが緻密に史料で組み立てているので説得力がある。本書は「大正教養主義」のバイブルである『三太郎の日記』の著者である哲学者阿部次郎を取り上げる。現代ではなかば忘れ去られた思想家である。30代で名声を博し、40歳で新設の東北帝国大学法文学部教授に着任しているが、以降は『三太郎の日記』を超える作品を世に出すことはできなかった。また恋愛エピソードもおもしろい。和辻哲郎夫人の照という女性は「悪女」ではないかと思った。2018/12/25
やまやま
10
本書も「作品中心主義」ではなく「文脈主義」であり、阿部の人と時代に関わる社会史的評伝を目し、それは成功しているように思える。評者は岩波茂雄に関心があるが、本書でも岩波と阿部の妻である恒が神田高女でつながり、三太郎の日記も岩波で刊行される。中公の編集者であった滝田樗陰も岩波も漱石のところに出入りしていたが、二人とも東京帝大卒のハビトゥスを有しながらも中退者であることで道化的ポジションを獲得したという解説も興味深かった。人脈資本を活かしていたわけで、樗陰は二高人脈でも吉野作造を中公の看板とした所以である。2020/12/14
Yasuhiko Ito
3
広瀬川沿いの遊歩道を散歩したときに米ヶ袋の住宅街にひっそりと阿部次郎記念館があったのを思い出した。三太郎の日記の阿部次郎って仙台市の名誉市民だったんだね。全く知らなかった。本書は主に阿部次郎の伝記であり、教養主義がなぜ没落に至ったかについて興味ある方は先に同じ著者の「教養主義の没落」を読むといい。2023/09/07
剛田剛
2
久しぶりに竹内先生の著作を手に取った。現代社会においても「知識人」「言論人」の有り様は疑念を持たれ、その地位の凋落は著しいが、その現象が大正時代においても昭和時代においても同じように発生していたことに改めて気づかされた。「歴史は繰り返さないが韻を踏む」というが、「超越的な態度を気取りたがる知識人」と「その知識の実効性を問い詰める非知識人」の緊張関係は知識の周辺部に常に存在するものなのであろう。2019/01/24
tkm66
2
著者の着眼点は毎回興味深く、かつ内容も面白い。ただ、巻末の〈筑摩選書目録〉の玉石混淆ッぷりが読み切った達成感を萎えさせるに十二分の破壊力。2018/09/21