内容説明
売れない作家サミュエルはテレビのニュース番組を見ていて驚愕した。映っていたのは長年行方不明の母親、しかも、州知事に石を投げていたのだ! サミュエルは母の伝記で一儲けしようと考え母の半生を調べはじめるが、そこには想像もしない事実が待っていた。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こーた
184
冒頭にある、盲人と象の仏教の説話のように、これこれこういうはなしである、とひと言であらわすのは難しい。部分だけでは的外れで、だがすべてが象を言い当ててもいて、読むわたしは王の如く呵々大笑する。懸命に穴を掘りすすめていったら、なぜか二階家が建っていて、それも一棟ではなく、幾つも、高層ビルまでが建って、いつのまにやら街ができている。そんな感覚に何度も襲われる。その仮構された街が、さいご反転して地下室にぎゅっと畳みこまれるのだ。二段組七百頁超。ああそうか、とにかく長い小説だ、ということだけはたしかなようだ。2019/04/09
ケイ
134
楽しくて、700ページの二段組を、どこも飛ばないよう大切に読んだ。例外はフェイのところ。立ち向かわず、周りを傷つけ、しかし自分の傷には弱い、そんな彼女のパートだけは、読んでいて気分がダウンした。それ以外の細かいエピソードはどれも愛おしい。ベサニーにアリス、ボウンジ、そしてブラウンさえも‥、彼らに寄り添って読む。特にビショップの話はもっと読みたかったな。作者はこのを作品書くことで、自分の中を癒したのだと思う。そして、読み手もどこかで癒されるような物語。2019/05/12
藤月はな(灯れ松明の火)
89
どんな選択をしても来し方を振り返る時、誰しも後悔する事はあるだろう。自分可愛さ故の言い訳、「死なばもろとも」な責任転嫁、放棄した責任や義務への罪悪感、何もしなかった事への後悔、そして掴み損ねた道たちへの憧れがいつまでもつきまといながら。この小説はまさにアメリカ、若しくは純化・対立構造とされがちな事柄への本質を突いている。打算的なローラによる語り部分は本当にイライラさせられたが、それも作者による策略だったのかもしれない。特に何もしない自分への言い訳で選んでしまう憎悪については思い当たることがありすぎてズキリ2019/05/02
ヘラジカ
57
やや長過ぎ、詰め込みすぎの嫌いもあるが、デビュー作でここまでの大作(700頁二段組)をものしてしまう作家は端的に言って並大抵ではない。若干の肥大化は、作品としてのまとまりを優先するよりも、習作として書きたいものを書いた結果とも見られるがどうだろうか。描写力、意欲的な構成、ポップカルチャーを取り込んだ現代性、模範的なストーリーテリング。10年を超える歳月をかけたというだけあってデビュー作としては卓越している。ただし、ピースが多すぎて全てがきちんとはまった感覚がない。次はカットして整えられた作品が読みたい。2019/02/22
白玉あずき
39
素晴らしい!「現代」を語る最高の1冊。今という時代をざっくり掴むにはこれ以上の「資料」は無い。1960年代、ラヴ&ピース、イチゴ白書、ベトナム反戦運動のノスタルジーにどっぷり浸ってうっとりした挙句の純真なリベラル理想主義の崩壊。過去と呼応するウォールストリートの占拠。断末魔の啓蒙主義、民主主義と政治の虚妄。私の読みたい物すべてがここにあった。そして最後にモルガン邸に掲げられた「強欲の勝利」。ペリウィンクルに語らせる作者の程よいシニシズム!彼の語りには付箋が山のように付きますよ。今という時代を知るには、2019/06/22