内容説明
舞台は1980年代。時の大統領ミッテランがブラッスリーに置き忘れた帽子は、持ち主が変わるたびに彼らの人生に幸運をもたらしてゆく。うだつの上がらない会計士、不倫を断ち切れない女、スランプ中の天才調香師、退屈なブルジョワ男。まだ携帯もインターネットもなく、フランスが最も輝いていた時代の、洒脱な大人のおとぎ話。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
193
ミッテラン大統領が失くした帽子が旅をして、 手にした人たちの運命を変えていく… 冴えない人生が 帽子を手にすることで 美しく変わっていく…現代の 大人のメルヘンである。 全編に渡る80年代のフランスの お洒落な雰囲気が素敵で 香り立つ印象である。 読んでいると何となく 幸せの感じに 浸れる、そんなお話だった。2019/06/01
ケイ
159
ミッテランは誰よりも長くフランス共和国大統領だった。7年を2回。その後のシラクも2期務めたが任期は5年×2で10年。私がフランス語の勉強を始めた時の大統領も留学の間もミッテラン。だから、私にとってフランスの大統領と言えばミッテラン。彼がテレビに向かって話す時の、落ち着いて重々しく安心感のある雰囲気は今もよく覚えている。帽子の姿は記憶にはない...。作品の持つ軽快さは心地よく、牡蠣やクロワッサンを食べる時の美味しそうな様子にもだえた。フランスの政治や文化をある程度知っているとさらに味わいが深くなると思う。2019/05/13
星落秋風五丈原
137
本編では、ミッテランがレストランで忘れた帽子を4人の男女が手にする。帽子以前/以後とでは彼等の人生は激変する、それも良い方に。まるで意思を持っているかのように、帽子は彼等の元に留まることなく、次の持ち主の元へ行く。「今なお人気が高い大統領だから、所持品にも何かが宿るのか」と思いきや、あくまで帽子は、本来彼等が持っているものを、ほんの少し外に引き出すための、単なるきっかけでしかない所が面白い。変にファンタジーにしてしまうと、折角本編に登場する実在の人物達のリアリティも薄れてしまうからだろう。2019/04/16
のっち♬
115
政権弱体期にミッテラン大統領が帽子を失い、手にした人の人生に劇的な変化が起こる。テレビ台頭をめぐる一般と上流の対比、絢爛な社交模様、各エピソードと緊密に絡む料理や芸術など、文化的にも政治的にも節目を迎えた1980年代のフランス社会像を多角的に、豊かな彩りとエスプリを添えて映し出す濃密な作品。著者が捉える登場人物の運命の変わり目も普段意識されない偶然と潜在能力に満ち、おかしみと各々等身大の苦悩や喜悦は時代や国境の壁を超えて読者の心を潤すことだろう。映画関係のキャリアを強く感じさせる映像的アプローチも特徴的。2024/01/30
(C17H26O4)
103
帽子はほんのきっかけ。未来への背中を押したのはきっと彼ら自身だもの。ほら、ちょっとだけ視点を変えて、ちょっとだけいつもと違う行動を。信じてみて、自分自身を。ミッテランの忘れ物の帽子が、それを手にした人たちにかけた素敵な魔法。そして実はある人の配慮に支えられてもいたという、驚くべき幸運。2019/09/12