内容説明
いましめくくりの時のはじめに、八つの短篇を書いて、そこに映る自分を見る。切実な時代の影に、個の生の苦渋のあとは見まがいがたいが、ユーモアの微光もまんべんなくある。思いがけないのは、女性的なものの力の色濃さだった。遠い幼年時の自分と、それほど遠くないはずの死、また「再生」を思う自分を結んでいる。知的な経験と、森のなかの谷間の神話を、懐かしく媒介しているのも女性的なものだ(著者・『いかに木を殺すか』)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ぐうぐう
29
長編こそが小説家としての自分を一番に発揮できるスタイルであると気付いてからの大江健三郎にとっての短編とは、長編から零れ落ちたもの、あるいは長編を補完するような役割を担っていたように感じる。そういう意味では、中期の短・中編を収めた本巻を読むと、初期のそれよりも自由度が増したような印象を受けるのだ。長編があるからこそのそれは自由度なのだが、逆に言えば大江が長編を知る前の初期短編には、自由の代わりに切実さがあった。(つづく)2025/03/03
ゴリゾウ
1
性的人間、個人的な体験、アトミック・エイジの守護神、作家自身にとって文学とはなにか?、敬老週間、空の怪物アグイー、犬の世界、ブラジル風のポルトガル語/奇計に生まれたわが子の死を願う青年の魂の遍歴と、絶望と背徳の日々。狂気の淵に瀕した現代人に再生の希望はあるのか?新潮社文学賞受賞の「個人的な体験」#6511972/07/31




