内容説明
二つの大戦、社会主義政権の樹立、プラハの春とチェコ事件、そしてビロード革命――。激動の歴史を背景に中欧の小国チェコで育まれてきたSF。ハクスリー、オーウェル以前に私家版で出版されたディストピア小説から、J.G.バラードやブラッドベリにインスパイアされた作品まで、チェコSF界の最高峰〈カレル・チャペック賞〉受賞作を含む本邦初訳の傑作11編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
106
個人的にチェコSFと言ったらカレル・チャペックだが、こんなにバラエティに富んでいたのですね。そしてディストピアものやテクノロジーへの警告ものが多いのは嘗て、チェコが社会主義国家だったからだろうな。「オーストリアの税関」は冷戦時代の東西ドイツや朝鮮戦争後の朝鮮半島を彷彿とさせるが軽妙さがあるのが救いか。「再教育された人々」と「わがアゴニーにて」は救いもないディストピアで鬱々なのに対し、「裏目に出た発明」は今の拝金的な資本主義の行先を暗示しているかのよう。「大洪水」は世界の危機に対する個人の事情の差に笑う2018/12/04
HANA
69
チェコ発SFアンソロジー。チェコでSF作家というとチャペックしか知らなかったが、同時代から現代まで数多の作家や作品があるのを教えられる。内容もパロディにディストピアと幅広い。「わがアゴニーにて」とか、よく共産主義下で発表出来たなあ。「オーストラリアの税関」とか「クレー射撃にみたてた月旅行」等コメディめいた作品が面白かったが、ホラーめいた「オオカミ男」ラストが特徴的な「終わりよければすべてよし」もストライクゾーン。こういう悲劇や皮肉は大好物。あまり馴染みのないチェコのSFの入門書としては最適ではないかな。2019/07/13
燃えつきた棒
50
目次を見て、ハシェクの「オーストリアの税関」とチャペックの「大洪水」に期待したが、読了するや否や忘却の沼に沈んだ。 ヤロスラフ・ヴァイス「オオカミ男」がお気に入り。 チープなアメリカのB級SF映画を彷彿とさせる設定だが、妙に惹かれてしまう。 常々、常識には反感を抱いてしまうことの多い僕だが、奇想はレンヌの野に降る五月の雨の如く、心に沁みてくる。 ひょっとしたら、気がつかないうちに何処かで噛まれてしまったのかも知れない。 心なしか、最近体毛が異様に濃くなってきた。 嗚呼!満月のでる夜は怖ろしい!2019/07/23
かわうそ
36
思わぬところから唐突に出たSFアンソロジー。こんな意外性は嬉しい。発表年代古めの作品が多くレトロ映画を見ているような懐かしさがあった。お気に入りは「わがアゴニーにて」「クレー射撃にみたてた月旅行」あたり。2018/10/31
空猫
32
チェコの作家サンって馴染みがないと思い。『オーストラリアの税関』SF+社会風刺。『裏目に出た発明』星新一サンの作品にもこんなのあったな。『オオカミ男』マッドサイエンス物。『わがアゴニーにて』二極化した人類の話もこんなにシニカルに。『クレー射撃にみたてた月旅行』JFK暗殺事件もSFになると…‼SFの古典からその後影響を与えたであろう作品ばかりで、勿論相性はあるけれど名作揃いのアンソロジーだった。そして読みたい本がまた増えたorz2019/03/08