内容説明
『ミラノ 霧の風景』で彗星のようにあらわれ、知と情熱をたたえた佳品を遺して逝った文筆家須賀敦子。少女をキリスト教の信仰へ、遥かヨーロッパへと誘ったものは何だったのか。今なお多くの読者に愛される作家を追想し、その文学の核心に迫る。カルヴィーノ、タブッキ、サバ、そしてユルスナール。人を愛し、書物を愛し、たぐい稀な作品を紡ぎ出した須賀敦子の歩いた道を丹念に辿り直す書。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
114
むかしから須賀敦子を読んでいて全集も持っているので読んでみました。かなりこの著者とは親交があったようで、須賀敦子のいた関連の場所を渉猟して関係者などから話を聞いたりしています。最初に須賀が父親からの勧めで「渋江抽斉」を読むことから始まり、疎開の状況や大学でのはなしなどいままで須賀さん個人のことは知らなかったので、楽しませてもらいました。再度全集を読んでみようかと思っています。2018/03/08
佐島楓
60
生前の須賀さんと親交があった著者ということで、信頼がおける評伝。幼少時からフランス留学までの軌跡を丁寧にたどっており、好感が持てた。今後作品を読んでいきたい。2018/04/05
aika
50
須賀さんと生前親交が深かった著者が自身の足で辿る彼女の足跡。笑顔を絶やさずおしゃべりで、時に短気など、著作を読むだけでは分からなかったひとりの女性としての実像を照らしているようでした。何よりも読んでいて驚いたのは、僭越ながら、気がついたら自然と須賀さんの人生に自分自身を重ねていたことです。ぼんやりと思い返した、学生時代に描いた理想や友人との思い出… 今の私を形作るものを大切にしたい。未来にある希望を信じて、こう考えたい、読みたい、書きたい、生きたい。ふっと立ち止まらせてくれる余裕と勇気をくれる一冊でした。2019/03/12
aika
45
晩年の須賀敦子と交流があった著者が実際にゆかりの地を歩き、ゆかりの人と出会う旅路。松山さんは、須賀敦子はこういう人間だと「決めつける」ことをしません。テクストに忠実で、記憶の中の須賀の姿や言葉と照らし合わせながら、真摯に向き合っていく文章に、改めて信頼を寄せながらの再読でした。戦後の混乱の中、今よりもずっと女性が社会に出て働くことも、信仰をもって生きることも困難だった時代。底知れない逡巡の中でも、愛してやまない文学と信仰をたよりに彼女の辿った道は、今を生きる私たちにも仄かで確かな灯りをともしてくれます。2023/03/05
aika
44
少女時代からフランス留学を決断するまでの足跡を、晩年の須賀さんと親しかった著者がたどり、信頼できる言葉で語られたこの本。読むたびに須賀敦子という人の実在が感じられ、自分の歩く道の先に彼女が居るような、心強い気持ちになります。たくさんの本を読み、友人しげちゃんと語らい、家族の問題や進むべき道に迷い、孤独に身を浸しながらも自分で考えることを止めなかったひと。戦中戦後という混迷の時代を、迷いためらいながら自分の足でヨーロッパの石畳を踏みしめた須賀敦子というひとりの女性の生き方は、時を超えてもなお確かな憧憬です。2021/01/15