内容説明
名作『苦海浄土』で水俣病を告発し世界文学に昇華した著者が、ホームで闘病しながら語った、水俣・不知火海の風景の記憶と幻視の光景。朝日新聞に3年にわたり連載されたエッセイを収録した最晩年の肉声。写真家・芥川仁氏による写真多数収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みねたか@
33
亡くなる前月まで朝日新聞に連載されたエッセイ。少女時代,大地と空は1つの息でつながっていて妖怪の棲む異界との境界もあやふやな神秘的な世界があった。やがて海岸線を覆う排出物,水鳥や貝たちの死,狂い死にする猫などチッソの姿は不気味に影をおとしていく。暖かい家庭しかし厳しさ辛さも味わう中,少女はドンベコス・琵琶ひきなど境界を生きる者たちの姿に惹かれ,「魂の遠ざれきをする」漂泊者としての自己を形成していく。老境の作家の語りは,夢とうつつが混ざり合う静謐な夢幻世界。美しくかつ凛とした厳しさも感じさせる極上の一冊。2019/07/03
抹茶モナカ
33
朝日新聞で不定期連載していた口述筆記のエッセイ。亡くなる一ヶ月前くらいのものもあるので、本当に遺作となる作品。水俣の風景写真を挟みながら、大きな活字で1冊の本の形に仕上げられていて、読みやすく、それでいて文学的な空気もある。大江健三郎さんと似た空気を感じたのは、大江作品によく登場する土地の神話を語る老婆の語り口に似た物語を語る時の姿勢のせいだろうか。熊本地震の事も語られ、「本当に同時代に生きていた作家だったんだな。」と、思った。年老いる事についても、静かな気持ちで考え、「魂の深い人間」という表現に憧れた。2018/08/01
シュシュ
31
朝日新聞に連載した石牟礼さんののエッセイ。モノクロの写真とともに、石牟礼さんの幼い頃の話や家族の話や水俣の風景が描かれていて面白かった。『我が家にビートルズ』は、息子さんと石牟礼さんが微笑ましかった。息子さんの勉強を邪魔したくてくすぐる石牟礼さん。のんびりした感じがとてもいいなあと思う。『少年』『水におぼれた記憶』『女の手仕事』『石の神様』もよかった。また時々読み返したい。 2018/07/26
くまさん
27
まず物凄い題名である。そこがユートピアでなく実在する場所であることを、芥川仁さんの写真が教えてくれる。椿の蜜の美しい描写や「生命が海から陸へと上がりかけた」ままのようなアコウの巨樹の景色が目に焼きつく。文章を書くことの意味、世界への原初的な目ざめ、「自分の中から沸き上がる「あこがれ」」を心に留める著者は、自分を勘定に入れず、秋の夕暮れに〈風の色〉が変わる瞬間も逃すことなく、この世界の果てまで見つめようとしているかのようだ。この呼応の空間は著者がまだ生きていることを証し立てている。心のよりどころとなる書物。2019/01/05
紫羊
18
石牟礼さん最晩年のエッセイ。最後まで声なき者たちの思いを掬い上げ静かに世に問い続けられた。「苦海浄土」を遺してくださったことに感謝。2019/01/02
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