内容説明
1591年冬。オスマン帝国の首都イスタンブルで、細密画師が殺された。その死をもたらしたのは、皇帝の命により秘密裡に製作されている装飾写本なのか……? 同じころ、カラは12年ぶりにイスタンブルへ帰ってきた。彼は件の装飾写本の作業を監督する叔父の手助けをするうちに、寡婦である美貌の従妹シェキュレへの恋心を募らせていく――
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
104
16世紀末のオスマン帝国の首都イスタンブル。「わたしは屍」で始まる上巻。井戸の底で躯となった細密画師〈優美〉。第1の殺人である。幼馴染のシェキュレとカラが再会し恋の炎を燃え上がらせるなか、〈おじ上〉が赤のインク壺で惨殺される。これが第2の殺人。生涯を神の美に捧げてきた〈蝶〉〈オリーヴ〉〈コウノトリ〉の名人絵師たちの、いったいだれが凶行に及んだというのだろう。細密画の技術と様式美をめぐる東西の文明の衝突と犯人捜し、スケールの大きなミステリーである。下巻へ続く。2020/06/30
ゆいまある
100
16世紀オスマン帝国時代のトルコ。イスラム細密画の画家が殺された。と、聞くと歴史音痴なので読む気がしなかったのだが、手に取ってみたら、次々リズムよく変わる語り手それぞれ個性が際立っており、まるで細密画のような緻密な物語に気持ちよく絡めとられてしまう。人殺しは誰なのか、そして絶世の美女を巡る二人の男性。女性の社会的地位は低いものの、美しくてずる賢い女に翻弄される男たち。そこは社会的背景がなんだろうと変わらないものなのね。当時のトルコが中国やイタリアの影響を受けていたことなども興味深く読めた。下巻へ。2019/05/18
巨峰
86
16世紀のオスマントルコの首都イスタンブール。様々な民族が相暮らす町で、皇帝の密命を受けて細密画を作成中の画師が殺される。イスラムの世界の出来事をちりばめながら事件は螺旋模様に広がっていく。そして続いての事件が。。。一風変わったミステリーとしても、歴史小説とも読める。中々読みがいあり。下巻へ2018/09/08
(C17H26O4)
85
表紙を開き、目次に掴まれる。「わたしは屍」「わたしの名はカラ」「わたしは諸君のおじ上」「わたしは…」「わたしは…」「わたし」は人とは限らない。犬や木や色も。冒頭で細密画師が殺されたことを発端にそれらが次々と語っていく。細部から絵画が描かれていくように物語が構築されていく印象だ。いや、それとも細密画に描かれている者たちがそれぞれ物語を好きに語っているのか? 次第に渦にのまれ、くらくらと目眩がしてくるような読書体験だ。終盤に二つ目の惨殺事件が起き、物語が動き出したところで下巻へ。全体像はまだ皆目わからない。 2022/07/12
崩紫サロメ
67
何度目かの再読。殺された絵師を巡るミステリーとして、カラとシェキュレのちょっとコミカルな恋愛ものとして、絵を巡る宗教的な葛藤の物語として……何度読んでもおいしい。新刊『赤い髪の女』で主人公がウィットフォーゲルを愛読している場面があり、今回は作中の中国認識に注目して読もうかなあ、などと思ったりもした。結局ウィットフォーゲルなのかはよくわからず、このこってりしたオリエンタリズム感溢れる中国像はどう形成されたのだろう、など余計に謎が深まった。2020/01/10