内容説明
人の世と山との境界に、夫の伊久男とひっそり暮らす老女、日名子。雪の朝、その家を十八歳の真帆子が訪れた。愛する少年が、人を殺めて山に消えたのだという。彼を捜す真帆子に付き添い、老夫婦は恐ろしい山に分け入ることに。日名子もまた、爛れるほどの愛が引き起こしたある罪を、そこに隠していたのだ──。山という異界で交錯する二つの愛を見つめた物語。島清恋愛文学賞受賞。
感想・レビュー
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ミカママ
479
大人の恋愛小説。30代で運命の相手に出逢ってしまったシーンが圧巻。「この男と繋がった。もうはぐれることはない」。聖子ちゃん風に言えば「ビビビときた」。かくいうわたしも人並みにそう感じたことはあった(ような気もする)が、フツーの人間はその感情を3年もすれば忘れる。実際聖子ちゃんだって続かなかったし。作中語られる西の方(岡山?)の方言があたたかい。山の神秘と男女の官能を描いたファンタジー、あさのさん、作家としての新しい扉を開いたのではないか。2020/03/31
mocha
107
「山は浄化の場所ではない。まして癒しの場所などであるわけがない。異界なのだ。人を拒むか、呑みこむか」人の世と山との臨界に住む老夫婦、伊久雄と日名子。二人は山へ誘われる人々を送り出し、帰ってくる人を迎えて穏やかに生きている。けれどそれは贖罪の日々だった。熱情から山へ入ろうとする真帆子と出会い、二人の過去が明かされていく。『ぬばたま』と同じく山の怖さを題材にしながら、怪奇物の色合いは薄め。老夫婦を未だに縛る情念が恐ろしい。2016/08/02
じいじ
97
著者の5冊目の作品だが、新感触の小説だ。大好きな島清恋愛文学賞受賞作。降り積もった雪はいつかは融けるけれど、人の齢〈よわい〉は融けない。私は齢80歳を前に、死を意識するようになった。そんな中、次の一説は目からウロコでした。老いないことほど惨いことはない。不死ほど恐ろしいものはない。死が永久に生き続ける恐怖を救ってくれることは確かだ。人間の〈生と死〉について徹底的に見つめさせられた一冊でした。2020/07/19
モルク
82
花粧山の入り口にある家は人の世と山との境界。この家に住む老夫婦のもとに、父を殺し山に消えた愛する人陽介を追って18歳の真帆子がたどり着く。なぜこの老夫婦がここに住み続けるのか。人間の深い業…。真帆子の執念ともいうべき深い愛に老夫婦も一緒に山に入る。そこで明かされる老夫婦の過去、そして真実。冬山という異界が、さらに幽玄の世界を奏でる。ところで、陽介はなぜ父親を殺したの?私が読み逃したのかなあ。2019/05/18
チアモン
57
本当にあさのさんには脱帽です。ラストはハッピーエンドとは言えなかったけれど、恋や愛・・・。こんな情熱、私には無理かな。一体どこにたどり着くんだろう。とても重たい作品でした。2019/01/08