内容説明
日本でキリスト教徒の迫害が進む17世紀。アイヌと和人の子チカップは、兄と慕うジュリアンと共に、命懸けの航海の末マカウの地に辿り着く。母に聴かされたアイヌの歌を拠り所に生きるチカップは、キリスト教の信仰に惹かれつつも、故郷のえぞ地への思いを持ち続けていた。マカウも安住の地とはなり得ず、少女は再び航海に身をゆだねる。物語や言葉が多重な層を織りなす、著者最後の長編小説。
目次
二章 南シナ海(1 マカウで成長し、多くの事実を知りはじめるチカとジュリアンの物語
2 さまざまな別れの物語)
三章 ジャワ海(代筆による三通の文の物語
1 一六三九年 一通めの文
2 一六四三年 二通めの文
3 一六七三年 三通めの文)
一九六七年 オホーツク海
参考文献一覧
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
amanon
7
解説にもあるように多層的な構造を有している作品であるため、包括的な感想を述べにくいというのが正直なところ。日本におけるキリシタン弾圧、マカオやアジア周辺における複雑な国際関係の軋轢、いわゆる新教と旧教との対立、アイヌの迫害…そうした様々な弾圧や争いに翻弄され、虐げられる人たちの姿は、今更ながらに切なく痛ましい。切ないと言えば、お互い深く慕い合い、幼い恋心を育みながらも、結局結ばれることのなかったチカとジュリアンの姿も、なんとも儚く切ない。特に最後の別れの場面での二人の抱擁シーンはこの作品の白眉と言える。2024/12/03
fukufuku
3
作者の遺作。 個人的に、キリスト教を含む一神教には胡散臭い思いしかないためか、物語の途中はクリスチャンの皆々様の欺瞞と傲慢が鼻につく。が、それはそのまま、チカというアイヌ和人ハーフの少女のアイデンティティーにも関係していく。 チカップは鳥、ワッカは水。冷たく清き水の流れる川の地で生まれ育った私にはアイヌは近いのに、何も知ろうとしてこなかった遺恨の民族であり文化だ。小さい頃、アイヌはいるらしいけれど、日常では見えない、ぼんやりとした人たちだった。幼い頃からの自らの無神経な無関心が悔やまれる。2022/06/09
amanon
1
あくまで兄妹という関係を維持しつつ、互いに言葉に表せない恋慕を抱くジュリアンとチカ。そしてその思いは一度も交差することなく、二人はその後相見えることはなかった…その二人の姿を軸に描かれる激動の歴史。キリスト者同士、あるいは日本人同士の醜い争い、そしてアイヌやキリシタンへの日本人の酷い迫害…こうした様相は多少なりとも現代の日本にも通じるものがある。そして、本篇終盤の多くを占めるチカのジュリアンへの手紙が何とも言えず切ない。年を取り孫がいる身になっても、ジュリアンに語りかける言葉が一貫しているのが美しい。2019/04/14
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