内容説明
「ねえ、由くん。わたしはあなたが――」 初めて聞いたその声に足を止める。学校からの帰り道。中学のグラウンドや、駅前の本屋。それから白い猫が眠る空き地の中で、なぜだか僕のことを知っている不思議な少女・椎名由希は、いつもそんな風に声をかけてきた。笑って、泣いて、怒って、手を繋いで。僕たちは何度も、消えていく思い出を、どこにも存在しない約束を重ねていく。だから、僕は何も知らなかったんだ。由希が浮かべた笑顔の価値も、零した涙の意味も。たくさんの「初めまして」に込められた、たった一つの想いすら。これは残酷なまでに切なく、心を捉えて離さない、出会いと別れの物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まりも
65
何故か自分の事を知っている不思議な少女。これは彼女のたくさんのはじめましてに込められた想いを描いた物語。まるで雪のように儚い。この作品を読み終えた後思うことは、この物語が迎えた結末は果たして悲恋だったのか。それともほんの少しの奇跡が起こしてくれた救いのある恋だったのか。そのどちらかなのかは分からない。一つだけ言えるのは、確かにユキという少女がそこにいて、彼女の想いに胸を揺さぶられたという事。今も胸の中に様々な感情が入り乱れていて、なんか言葉が出ない。ほんとこういう作品に弱いんだ。2018/03/11
もも
59
「初めまして」なのに何故か自分の事を知っている不思議な少女とどこにも存在しない約束を重ねていく。彼女の「初めまして」に込められた想いとは。面白い構成で楽しませてくれた作品。段々と明かされていく真実に胸が締めつけられます。ラストにはなるほど、こうきたか、と。これで幸せだったのだろうか、と少し思ったけれど最後に彼女が残した言葉が答えなのかなと。素敵なお話でした。ユキはちょっと自分勝手で意地悪だけどそんなところすら愛しく思えます。ぶーたさんのイラストともマッチしてより可愛くなってます。面白かったです♪2018/03/17
よっち
49
なぜだか春由のことを知っていて声を掛けてくる不思議な少女・椎名由希。何度も消えていく思い出を、どこにも存在しない約束を二人で積み重ねてゆく出会いと別れの物語。シチュエーションを変えて出会いと思い出を積み重ねてゆく春由と由希。なぜ出会いが繰り返されるのか、甘酸っぱい思い出の中で由希は切なそうなのか、明らかになってゆく彼女の特殊な事情。何度もお互い想い合うようになっても、彼女の真意はなかなか伝わらなくて、確かに望みは叶えられたのかもしれないけれど、これで良かったと言えるのかいろいろと考えてしまう結末でした。 2018/03/11
かわゆきか
48
はああああん、切ないよう。胸が苦しいよう。主人公の心に自分を刻み込むという願いのみが生きる希望のヒロインの胸の痛みを思うと酸欠になりそう。今はちょうど桜が満開ですが、桜を見る度に感じる幸福感と切なさの混ざり具合が、この物語とちょうどシンクロしている感じがなんとも。ちょっと前までめっちゃ寒かったのが嘘のよう。ハッ、もしやこの感覚は由希さん?2018/03/31
中性色
46
懐かしい声がする。物語の形としては悪くないけれど、結局こういう話は言ってしまえば道中はカタルシスみたいなものなので、最後結局状況がたいして改善されない形では解消されずに残ってしまう感覚になってしまうのがなぁ。あとこれも意図的にやることなんだろうけど、時系列がかなり入れ替わってるので状況をつかむのに一苦労するかも。総じていろんな意味で綺麗な作品といった具合か2018/03/13