内容説明
今一番楽しみなのは村木嵐だ――と葉室麟に言わしめた作家による骨太な歴史小説。江戸に幕府が開かれて五十年余り。後に越後高田藩筆頭家老になる小栗美作は、大地震の後処理で手腕を発揮し、藩主・松平光長の信頼を勝ち取る。しかし光長の嫡子が亡くなると藩内は真っ二つに割れ、御家騒動へと発展。美作は否応なく、その渦に巻き込まれていく。そんな高田藩を取り潰そうと幕府は虎視眈々と機会を窺っていた。逃げず、媚びず、諦めず――藩を守るため、次々に襲いかかる難題と懸命に戦った男の生涯を感動的に描く歴史長篇。伊達騒動を描いた『樅ノ木は残った』を彷彿とさせる力作。
感想・レビュー
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yamakujira
6
越後騒動の悪役とされる小栗美作を忠臣としてえがく物語は、幕府側が酒井忠清ってこともあって、切ないラストが「樅の木は残った」を彷彿とさせる。でも小栗の施策を見ると、改革に反対する守旧派に潰されたのがわかるし、幕府の再審議って史実にも綱吉の恣意を感じるから、小栗父子は生贄だったのかもしれない。歴史解釈も人物造形も悪くないのに、時間を端折ったダイジェスト的な展開が平板に感じてしまったから、もう少し物語にメリハリをつけてほしい。小栗が恬淡としすぎだから、家士や領民の視点があってもよかったかも。 (★★★☆☆)2019/07/25
熱東風(あちこち)
2
越後騒動の中心人物・小栗美作を描いた物語。/中々面白かった。ただ、どこかすっと逸らされるような文体には重量感がなく、人によっては物足りなく感じる向きもあるかもしれない。/越後騒動は綱淵謙錠の『越後太平記』をかなり昔に読んで以来となる。伊達騒動を描いた山本周五郎『樅の木は残った』と並んで、極悪人とされてきた評価を覆すその内容には衝撃に近い物を感じたものだった。これもそれに準じた内容ではあるが、アクの無さにやや拍子抜けの感が無きにしもあらず。悪くはないのだけど…。2018/05/29
nkwada
1
読み始めは時代小説かと思ったが、越後騒動を題材として歴史小説で、伊達騒動を扱った「樅ノ木は残った」同様に事件で断罪された人物を良い人物として描く形式の作品、ということに途中から気がついた。そういうトリックというかテーマであることを外しても、そこそこ楽しめる内容だった。浅茅との関係とかちょっとしんみりするが、重要ばキーである雅楽頭との厚い関係が嘘くさい雰囲気なのが残念だが、全体として力作だなと思った。2021/04/15
千日紅
0
★★★★★江戸に幕府が開かれて50年近く―。越後高田藩主・松平光長のところへ、豊後へ流されていた弟や妹が戻ってきた。その妹を娶ったのが、後に筆頭家老になる小栗美作である。降り積もる雪、大地震、大火、継嗣争い、藩を二分する御家騒動、取り潰しの機会を窺う幕府など、次々と降りかかる難題に、美作はどう対峙していくのか。逃げず、媚びず、諦めず―。藩を守るための戦いを繰り広げた凛々しい男の物語。2018/12/25