内容説明
その個人史を書くことが、彼なり彼女なりの属する共同体の歴史を書くこととほぼ重なる、という人物がいる。榎本武揚も間違いなくそのひとりであった。自分はその武揚について、これだけ存分に書かせてもらえたのだ。小説家としてなんと幸福なことかと、いま感じている。
――単行本『決定版 武揚伝』あとがきより
押し寄せる西軍の前に奥羽越列藩同盟の雄・仙台藩が降伏、会津は陥落した。榎本武揚は徳川家艦隊を引き連れ蝦夷ガ島に向かい箱館を攻略。英仏米露普を相手に自治州を宣言し、蝦夷共和国を樹立する。だが荒天により開陽丸を喪い、西軍が海峡を突破! 五稜郭に拠り奮戦するも、土方歳三は倒れ、武揚は……。
新田次郎文学賞受賞作を全面改稿した決定版、堂々完結!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
如水
36
本巻は五稜郭戦で話はほぼ終わります(その後の話を読みたかったのですが💦)。この巻頃から武揚が何をしたか?を良く知っていたので3巻纏めた感想を。『開陽』で始まり『開陽』で終わる。星(北斗七星)の意味でも船の意味でも。コレに尽きると思われます。後、『共和制』を日本国内では先駈け、『蝦夷共和国』を作り理想郷を追い求めた…が実は建前は…と言う所も。ザっと考えても戊辰戦争初期では考えられない様な戦略、思想が五稜郭戦では敵味方共々築かれていた、と考えると物凄い速さ(約1.5年で)の進歩だった、と思える物語でした。2021/09/17
rokubrain
26
武揚が新しい日本に描いた夢はどのようなものだったか?新政府に相いれない人々で共和制を作る”蝦夷共和国”の構想は、海戦、陸戦とも国際政治力や新しい戦術を駆使したが、総力戦で叶わず敗れる。その後の新政府での事績も多々あり、世間には、「二君にまみえた裏切り者」という評価もあるが、彼の本質は権力から見た側にあるのではなく、「日本の近代化」に忠誠を尽くすことにあった。というのが佐々木さんの見方のようだ。武揚軍の兵士の間で自然発生的に歌われるラ・マルセイエーズ”の情景が印象に残る。2024/08/31
誰かのプリン
21
江戸より脱出した榎本艦隊を待っていたのは、嵐により主要艦開陽丸の座礁だった。敗北の全ての予兆はここから始まる。時代は変わるけど、源 義経が九州に逃げる時やはり嵐に遭って、九州落ちを断念したんだよね。★★★★☆4.52018/09/15
Chikabono
14
全体を通してかなり榎本武揚よりな見方のような。。箱館戦争後の半生がなく残念。2025/01/23
イリエ
13
うーん、面白いんだけど…。榎本武揚からみた幕末、設定がまず面白いです。徳川慶喜や勝海舟にこそが欠陥であった立場で描かれる。開陽丸の最期も知りませんでした。なにより、共和国を作ろうとしていたことに驚く。タイトルも『蝦夷共和国』にした方がいいんじゃないでしょうか、って気に。何よりも、主人公が出木杉君なので、悲劇だなぁとは思いますが心に残りません。あの時代に、あそこまで考えたのだから、もっとめちゃくちゃな人なのでは? 「武揚伝」なら、あの後こそ、もっと見たいなぁ。 2019/01/28