内容説明
学生運動に伴うリンチ事件の主謀者として三年間の刑務所生活を終え、男はひっそりと暮らしていた。ある日彼は、自分が尾行されていることに気づく。待ち伏せてみるとそれは昔の仲間であったのだが……。完璧な自殺それが問題だ――頭蓋の奥で響く小さな呟きを意識しながら、植民地都市へ向かい、飛翔を試みた、かつて革命の時を生きた男は何を思い、何を求めるのか? 矢吹駆の罪と罰を描いた、シリーズ第ゼロ作にして、笠井潔の原点! 幻の処女長編テロリズム小説。/講談社文庫版解説=竹田青嗣、創元推理文庫版解説=小森健太朗
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
セウテス
77
矢吹駆シリーズ第0弾。矢吹駆シリーズのミステリを好んで読んでいる読者に、主人公矢吹を深く知る為の作品でありミステリではない。矢吹が、ナディアと出会い事件の謎を解く様になる以前の、「革命」が高みであると信じて罪を犯した彼の再生の物語だ。タイトル画面は、己の信じる真実の為に太陽(神)を目指し、翼を焼かれ堕ちて行くルシファー(イカロス)に見える。「革命」という思いに憑かれたテロリストを描いているとも言え、何かを変える為にはという言い訳にも感じる。1人の命を大切に護れない者は、それ以上の事は出来ないと知る迄の話。2018/11/15
S.Mori
22
強烈な印象を残す本です。学生運動のリンチが出てきます。この場面は読んでいた胸が悪くなりました。作者は学生運動の活動家だったことがあるので自分の経験を踏まえて書かれたのでしょう。私は共産主義には否定的な気持ちしか持てません。でもその理想には共感できます。学生運動に失敗して南の島で、自殺を考えながら生きる主人公は痛々しいというしかありません。さらに彼はギャンブルで、持ち金を失います。共産主義の理想が金銭の賭けという世俗的なもので失われることを描くことによって、この世の退廃と悲しさを描くところに魅せられました。2020/06/20
藤月はな(灯れ松明の火)
18
薄さに反して内容が濃かった本でした。矢吹駆氏の罪と贖罪へ至る過去。薄汚い人間社会を変革させるためには個人だけではなく、愛などの人間性も否定しなければならなかったことは極左リンチ事件についての批評を思い出し、非常に虚しくなりました。あまりにも人間への不信と虚無主義、完璧すぎて危うい思想を抱え、「完璧な自殺」を考察していた駆氏が全てを失った後に人間らしい感情を思い出したという場面が余計に虚しさを増しています。2012/02/24
yucchi
16
矢吹駆エピソード0。彼の過去を知るには避けて通れない作品なのだが、読んでて嫌悪感ばかりだった。革命革命革命...。革命がゲシュタルト崩壊。ある見開きで34回革命って書いてあったわ。矢吹駆シリーズを追うなら読んでも良いとは思うが、私は逆に興味を失ってしまった。短いながらも強烈なパワーがある作品。ただ私の求めている物とは違う。2014/11/28
那由多
7
矢吹駆エピソード0。期待したものと違った。もしこっちを先に読んでたら、シリーズには絶対手を出さなかった。しかしカケルがフランスで苦行僧のような生活を自分に強いる意味は理解できた。