内容説明
「寅さんの負け犬ぶりにいまだに共感する」という著者が、〈美しきもの見し人〉車寅次郎の旅路を追って、「男はつらいよ」全作品を詳細に読み解きながら、北海道知床から沖縄まで辿り歩いた画期的シネマ紀行文。なぜ、あのいつもずっこける放浪者はかくも日本人に愛されるのか? 映画に“動態保存”された「時代」がいま甦る。 ※新潮選書に掲載の写真の一部は、電子版には収録しておりません。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おさむ
43
渥美清さんが逝去されてからはや20年超。毎週、BSジャパンで映画が放送されているせいか今でも御存命な気がします。寅さんマニアの著者が、全国のロケ地を巡った旅行記は、寅さんシリーズの本質を見事に探り当てています。失われてしまったローカル鉄道やバス、風情ある街並みといった日本の原風景が「動態保存」されている。そして、市井の人々が持つ義理人情もそれぞれのシーンに刻まれています。全48作品に端役で出演していた谷よしのという女優さんの存在は初耳でした。これから観る時にチェックしてみよう。2017/06/25
アナクマ
28
「寅のおかげでこちらも日本各地を旅することが出来る」と著者は記しますが、その通りそのままの紀行本。映画の感動をなぞりつつ、旅情を誘う博識さはさすが。◉しかしそれ以上ではなく「失われた日本を描き出す」は少々食い足らず。また、これほど各地を巡ったのであれば、もうちょい気合いの入った地図や一覧表なども欲しかったところ。ま、一冊ですべてを、というのは無い物ねだりなのでしょうね。これを機に観たい作品が増えました。2018/02/20
零水亭
18
①写真・地図がもう少し多ければ…、②木曽街道、長野県の奈良井宿で泉鏡花「眉かくしの霊」の紹介がなかった😢は残念でしたが、それらを補って余りある名著。それぞれのロケ地での映画中の名シーンの紹介だけでなく、ロケ地のお食事、鉄道、ゆかりの文学作品も紹介されていて、読んでいて引き込まれました。 「あとがき」に「男はつらいよ」シリーズの魅力について、著者川本さんの想いがよく伝わってくる部分があるので、以下に引用します。 ↓2024/01/07
mymtskd
12
映画の中で、寅さんの赴く先にはいつも懐かしくそして美しい日本の風景が見える。「男はつらいよ」は旅の映画であるとともに、今はもう見ることができない日本の風景の記録映画でもある。あの風情のある街はどこだったのだろう、あの鄙びたローカル線と木造の駅舎はどこだったのだろうという答えがこの本の中にある。2020/01/02
まさにい
10
寅さんの旅に憧れる人は多いと思う。僕もその一人。30年以上前、学生の時に、寅さんを気取って高知までは飛行機で行き、そこから電車(まだ国鉄の時代)に乗って、四万十川中流の土佐大正まで行く。当然泊まった宿は、商人宿。しかし、寅さんのようなドラマはなく、四万十川のほとりを一人歩いているとオニヤンマが悠々と飛んで行ったり、沢蟹が何百と出てきたりという自然との触れ合いが中心であった。つくずく寅さんの旅かできる大人になりたいと思ったものだった。今もこのような旅は出来ないのだろうなぁ。2018/02/01