内容説明
紀州・熊野の貧しい路地に、兄や姉とは父が異なる私生児として生まれた土方の秋幸。悪行の噂絶えぬ父・龍造への憎悪とも憧憬ともつかぬ激情が、閉ざされた土地の血の呪縛の中で煮えたぎる。愛と痛みが暴力的に交錯し、圧倒的感動をもたらす戦慄のサーガ。戦後文学史における最重要長編「枯木灘」に、番外編「覇王の七日」を併録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
121
血の哀しみがフーガのように繰り返して積み重なっていく物語ということが言えると思いました。同じことが少しずつ形を変えながら奏でられる協奏曲ならではこそ胸に刺さる痛みがあります。憎悪と憧憬と血の呪縛、愛と痛みの交錯。これらが織りなす中で運命から逃れることができるのに逃れることなく破局へと流れ着くのが必然と捉えることしかできないのに何とも言えない感覚に陥りました。2017/02/03
Vakira
56
単行本の刊行当時の帯の惹句は「中上健次 初の長編小説 このいとおしい思い、この激情─人の寄って立つ土地と血への愛と痛みとを、“自然”に生きる人間の原型と向き合い未生の暗闇に探って、現実と物語のダイナミズムを現代に蘇らせる話題作!」だそうで、そんなこと言われたら読まずにいられない。まんまと出版社の思惑に乗って読んでしまう。で、なんと!帯の惹句通り。この匂いは大好きなドスやん臭。ドロドロの愛憎劇。こりゃ 中上版カラマーゾフの兄弟!いやカラマーゾフの一族だ。僕にとっては初中上長編作ですが即効でやられました。2025/01/22
まさむ♪ね
56
蠅の王の前では死さえも無意味。もはや誰もどうすることもできないだろう。その男の像はどんどん大きくなり、拒めば拒むほど秋幸の血肉に割り込んでくる。それでも、秋幸には心休まる居場所があった。何人も侵すことのできない彼だけの聖域。無心につるはしをふるいシャベルをつき立てる。全身をつたう玉の汗、土と草のいきれ、照りつける日の光、自然とあふれてくる涙。労働が汚れた体と心を洗い流してくれる。ただ生きる、それがこんなにも苦しく難しい。今は見えない光、ならばきっとある出口を探すための地図を描こう、逃げ惑いながらでもいい。2016/11/01
こばまり
56
太鼓の音のように繰り返される労働、木や土、蝉の声に染み込んでしまう主人公秋幸の姿にうっとり。故郷に住んでいた頃、夕暮れ時や明け方に山々を見つめると、体ごと持って行かれるようなうな一種独特な心持ちになったことを思い出しました。没後20余年を経てもただならぬオーラを放つ中上文学に組み敷かれたような読書体験。強く優しく美しく脆い雄の獣、秋幸のその後が気になるので『地の果て 至上の時』も読まねばと。2015/08/17
HANA
54
血は水よりも濃いという。普段は気にも止めないが、ある時はそれがドロドロと纏わりついてきて粘りついて離れない。先ほどフォークナーの『アブサロム、アブサロム!』を読んだのだが、物語に底流する血縁や常に屹立して離れない父、近親相姦と共通するものの多さに驚く。こちらは血というより家の問題も多そうだけど。ただアメリカの呪いみたいなものが徐々に暴かれていく向こうに対して、こちらの主人公はひたすら内省的。事件らしい事件が起きるのは最後だけ。それなのに、主人公の立ち振る舞いに、古代の神話の英雄めいた姿を感じさせられた。2015/01/15
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