内容説明
藩命により友を斬るための刀を探す武士の胸中を描く「春山入り」。小さな道場を開く浪人が、ふとしたことで介抱した行き倒れの痩せ侍。その侍が申し出た刀の交換と、劇的な結末を描く「三筋界隈」。城内の苛めで病んだ若侍が初めて人を斬る「夏の日」。他に、「半席」「約定」「乳房」等、踏み止まるしかないその場処でもがき続ける者たちの姿と人生の岐路を刻む本格時代小説の名品。『約定』改題。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐々陽太朗(K.Tsubota)
97
これはあくまで私にかぎったことだろうけれど、青山氏の短編には初めのうち妙な読みにくさがあると感じる。あとがきを読んでその理由が分かった気がする。青山氏曰く「私は、いわゆるプロットをつくらない書き手です」。物語の筋は登場人物しだいということなのだ。指が登場人物を描いてみて初めて登場人物がどう動くかが見えてくるということなのだろう。物語の前半の不透明さが私を落ち着かない気分にさせ、後半になって登場人物の行動がひとつの方向を目指して動き始めたとき、一気に興が乗り、人物が輝き始める。それはそれで楽しいものだ。2017/05/15
新地学@児童書病発動中
92
端正な文章、陰影のある登場人物の描き方、劇的なプロットが三拍子そろった傑作短編集。作者は平成の藤沢周平と言われることもあるそうだが、その褒め言葉は的確だ。この短編集には、森鴎外の歴史小説を思わせるような密度の高さがある。いずれの短編も下級武士の生き様を鮮烈に描いている。様々なしきたりや抜き差しならないしがらみにがんじがらめにされながら、それでも己の矜持を守って生きていこうとする男たちに、共感せずにはいられられない。浪人の武士が好敵手に出会うことがきっかけになって、自分の意地を貫く「三筋界隈」が私のベスト。2018/01/02
ふじさん
84
表題作「春山入り」は、藩命により友を斬るための刀を探す武士に訪れる思わぬ結末を描いた作品。「三筋界隅」は、小さな道場主の浪人が、ふとしたことで介抱した行き倒れの痩せ侍。その侍が申し出た刀の交換と、劇的な結末を描く作品。「夏の日」は、城内の苛めで病んだ若侍が初めて人を斬る話。「約定」は、果し合いをするはずが本人の勘違いで出来ずぬ切腹することになった武士の顛末を描いた作品。「半席」「乳房」等、踏み止まるしかないその場所でもがき続ける者たちの姿と人生の岐路を刻みこんだ本格時代小説の傑作。短編だが、読み応え十分。2025/06/13
ケンイチミズバ
72
刀が腰の飾りとなりつつある時代、城下でのお勤めが石高を左右した。そこには出世の悩み、子の将来、夫婦仲の問題など現代となんら変わらぬ思いを抱え研鑽する武士の姿があった。己を曲げ出世するのか、己を貫くのかもまた現代と通ずるものがある。寺崎は最期の侍であり侍の最後でもあったと思う。お上による米の販売自由化が天明の飢饉後の買い占めを招き義憤にかられた寺崎は勘定方旗本屋敷に討ち入る。わざと斬られた最後は立派な生き様だった。下級武士たちの清貧でまっすぐな生き方が心地よく、なんだか励まされたような気分もになれた。2017/05/08
チャーリブ
34
再読。あとがきによると、著者はひとつの短編を書くのに素材の探索にひと月、構想にひと月、執筆にひと月かけるそうです。収録6作品はどれも好編ですが、名作「半席」を措くと「夏の日」が一番好きです。先任の書院番士から酷い苛めに遭った西島雅之は、出仕することができなくなり引きこもっています。気分転換のために父の代参で知行地に赴いた雅之はそこで人生の転機となる事件に遭遇する…というストーリーですが、現代にも通じるものがあります。妻とのおしゃべりをやめられない武士(剣の達人)が出てくる「春山入り」もいいですね。○2023/09/17
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