内容説明
ティレニア海とイオニア海を見下ろす場所に、かつて存在した《いちじくの館》。焼失したこの宿の再建を目指す祖父と孫を中心とする数世代にわたる旅は、時に交差し、時に分かれて、荒々しくも美しい軌跡を描いてゆく――。豊饒なイメージと響き渡るポリフォニー。イタリアの注目作家による、土地に深く根差した強靱な物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
榊原 香織
115
とても良かった。素敵な小説です。 南イタリアとハンブルグ、イオニア海とティレニア海。 宿屋を復興する話なのだけど、ロマンあふれて、映画になりそな話です。アルバレシュ語話者の作者2024/08/27
mocha
99
母方の祖父の悲願は、先祖が営んでいた宿〈いちじくの館〉を再建すること。何もかもが熱い南イタリアと陰鬱なドイツのはざまで大人になっていく少年が、祖父の生涯を理解していく。一族の結束や地元のマフィアのような存在、イタリアの田舎の雰囲気がゴッドファーザーを彷彿とさせる。性に対してあけっぴろげなのもさすがイタリア。とてもエネルギッシュで魅力的な物語。陽光の下で飲むリモンチェッロが美味しそうだ。2018/02/11
のぶ
70
とても優れた文学作品だった。舞台は南イタリア。まずこの本の象徴的存在となる「いちじくの館」という消失してしまった宿がある。その宿の再建を目指してきたジョルジュ・ベッルーシという人物がいて、孫のフロリアンが語り手となって、一族の出来事を淡々と綴っていく。再建の話が直接的に描かれることはあまりなく、本書はそれを四つの旅に見立てて、ジョルジュ・ベッルーシから始まる周辺の物語を絡めながら語られていく。そこで見えてくるのは、一族の伝統でありその土地の歴史だった。海外の純文学作品が好みの人にはお勧め。2017/05/05
キムチ
54
イタリア南部の風景が圧倒的に広がる、壮大な大河ストーリーだ。舞台は19C半ばから20C半ば。デュマの手稿にでてくるいちじくの館、その再建に血潮をたぎらせた祖父の話。語り手はその孫息子。伊と独を繋ぐ友情が横糸となり話をうねらせて行く。情景を例える際には伊料理、感情を示すには食べ物 〜いやでもイタリアに魅せられてしまう。表題の海は伊半島の凹み部分、伊と独、更には孫の体内を流れる個性的な二人の祖父の血を意味しており、深い!マカロニとひよこ豆の料理〜本場物はさぞやハーブテイストだろな。秀作♪2017/06/17
えりか
49
イオニア海とティレニア海に挟まれ、ねっとりとした風が吹き込み、上空では燕が旋回するのどかなイタリアの片隅で、情熱に突き動かされ、生涯をかけた男の物語がその孫の視点で語られる。強烈な個性の両祖父をもつ孫の葛藤や成長、青春などを挟みながら、語られるその話は、批判されても妨害されても、どんなに絶望的な状況でも決して諦めない不屈の精神や家族の強い絆があり、胸を熱くする。ふたつの海のあいだで祖父は夢を追いかけ、またハンブルクとロッカルバのふたつの海(血)のあいだで少年は逞しく成長していく。素晴らしい物語だった。2017/12/25